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「え・・・?」
彼は日本人なのか?
花純が首を捻っていると、彼はくすくすと笑い出した。
「言うのが遅くなって申し訳ないです。僕は日本人の父と、こちらの世界の母を持ついわばハーフです。ああ、ハーフって言葉はこちらの世界では通用しませんよ」
茶化したような言葉に、花純もつられて笑ってしまう。
もしかして彼の父親って、隣町で日本食のレストランをしている男性だろうか?
「ちなみに父は、隣町のクラスターで日本食のレストランをしています。あ・・・、レストランという言葉もこちらでは通用しません。僕は父の言葉で、よく解かっていますが」
ではレストランって何て言うんだろう? 食堂・・・かな?
直哉は花純の部屋の扉を開けて、中へと入った。
夕日が綺麗に見える部屋だった。
「角部屋だから、窓が二つあるんだな。いいな・・・」
羨ましそうに呟く声に、思わず花純も微笑む。
中はシンプルなものだった。ベッドに机。あとはクローゼットがあるのみだ。
中にも内扉があるのが気になるが。
「個室だけど、トイレとお風呂がついてますよ。あと、クローゼットの中に制服が入ってあるとケニーさんが言ってました」
机の横に鞄を置いた直哉は、クローゼットを開いた。その中には確かに制服がある。
しかしやっと高校を卒業したのに、またも制服を着る羽目になるとは・・・。
「寮の中は基本的に私服で大丈夫ですが、外へ出る時は制服を着ることを義務付けられています。学園の外へも自由に行けます。その場合は寮長と事務室に許可を得なければなりませんが・・・。それが結構面倒臭いんですよね」
ふぅ~とため息を吐いてぼやく直哉に好感が持てた。半分だけでも日本人だと思えるから、余計にそう感じるのかもしれない。
机の上には鍵もある。この部屋の鍵と思われた。
「結構人気のある生徒の私物とか盗まれたりするので、部屋の鍵はしっかりかけてから出て下さいね。花純さんは可愛らしい方だから、きっと人気が出ると思うし」
何の人気だ? この日本人丸出しの顔が可愛いとは、とても思えない。こちらの女性は西洋人並みの顔で、超美しい人たちばかりなのだから。
直哉はあまり自分の言葉を理解していない危機感の薄い花純が心配になってきた。
「・・・心配だな。花純さん、しばらくは部屋の外に出る時は僕と一緒にいて下さい。お願いですから」
「う・・・、はい」
何がそんなに心配なのか解からないが、確かに一人は不安なので花純に否やはない。
直哉は机に近付き鍵を手にする。
「はい、どうぞ。まずは寮長に挨拶に行きましょう」
部屋の外に出て、花純が鍵をかけるのをしっかりと見守る直哉。
彼は心配症なのかな?
そう言えば、直哉は年齢はいつくなのだろうか?
「直哉君・・・さんは」
「直哉君でいいですよ」
何処か嬉しそうに微笑む直哉。
「な、直哉君はいくつなの?」
「僕ですか? 僕は十三歳です。もうすぐ十四だけど」
十三歳っ? え・・・?
こちらの世界の子たちって、もの凄く・・・・・・大人だ。
自分より五つも下・・・。
何だかショックだ。
(もしかして私って・・・・・・いくつに見えるのだろう?)
でも自分から十八歳ですって、自己紹介するのも変だよね? と思ってしまう。
直哉と二人して、また一階へと降りて行く。寮長の部屋は一階にあるようだ。
「たまに脱走する生徒がいますからね。寮長の部屋は何処の寮でも一階にあります。ここの寮長は結構大目にみてくれるけど、寮長の中には厳しい人もいるから」
そうか。生徒は千人弱だと聞いたから、一つの寮には入りきれないだろう。ということで、いくつかに別れているようだ。
「寮は十館に別れています。大体一つの領に百人ほど入ります」
十人の寮長がいるのか。
「寮長は一応生徒ですよ。生徒の代表みたいな感じで、先生や理事にも学園の在り方について抗議出来る立場にあります」
生徒会みたいな感じかなと、花純は思った。
話している内に、寮長の部屋に着いたようだ。
扉をノックしてから、直哉が声をかけた。
「ノウルズ寮長、直哉です」
「ああ、入っていいよ」
中から声が聞こえてくる。
直哉は目で花純に合図してから扉を開いた。
「やあ、ようこそ我が寮へ。君がカスミ・ノノミヤちゃんだね?」
目の前の男性がそう言いながら立ち上がった。