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恋人捜しは騎士団で  作者: 如月美樹
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 パンダニ学園に着く頃には、もう陽が傾きかけていた。役所からこんなに遠いなら、自力で歩いて行くのは無理そうだ。気軽に来いと言ってくれたニールだけど、そう易々とはいかないらしい。

「見えました。あれがパンダニ学園です」

 ケニーが窓越しに指差した建物の大きさに、花純は瞳を見開いた。

(お、大きい・・・・・・)

 高く聳える外壁の中にポツリと尖塔が見える。あの尖塔が何なのかは、今の花純には解からない。

 しかし学園が外壁に囲われているとは思わなかった。

 迷った場合は警備の者に訊ねろと、ケニーが言った言葉を思い出した。警備人がいるということは、外壁も必要なのだろうか?

 もしかして学生って・・・・・・狙われる?

 ぶるりと震えながら、花純は怖い考えを払拭した。

 門の前には、外壁の一部に埋め込まれるように小さな建物が建てられている。一瞬馬車が停まり、一言二言門番の人と御者が話してから、門が開かれた。馬車はそのまま中へと入って行く。

 しばらく学園の敷地内を進み、一つの建物の前で停まった。

 建物の前に男性が笑顔を浮かべて待ち構えていた。

 先にケニーが降り、花純も後に続く。

「ナオヤさん、お待たせしました」

 ケニーの言葉に、男性が笑顔のまま近付いてきた。

「大丈夫ですよ。役所からの距離は解かっていますので、大体の時間は予測出来ましたから」

 ナオヤって何だか日本人の名前っぽいと、花純はじっと見つめてしまう。

 花純の視線に気付いたナオヤは、こちらを見てにこりと微笑んでくれた。

 その爽やかな笑みに、不躾に見詰めていたことを恥じた花純だった。

 ケニーはそのまま馬車の後ろへ回り、花純の荷物を下ろす。

「あ・・・・・・っ」

 慌ててケニーの元へ行くが、すでに荷物は床に下ろされた後だった。

「すみません。ありがとうございます」

「貴女は少々力がないように思います。この学園の敷地は広大なので体力が持つか心配です」

 心配そうにそう告げられて、またも花純は己を恥じた。

 確かに大学に通うようになって以来、運動らしいものはしていない。階段の上り下りもエスカレーターやエレベーターに頼りきりだし・・・。

(体力・・・落ちてるよね。絶対)

「ナオヤさん、お願い出来ますか?」

「はい」

 ナオヤは二人に歩み寄り、花純の鞄を持った。

「ナオヤさんが、この世界の常識を教えてくれることになりました。彼はこの学園の生徒ですが、家庭環境を鑑みて先生方も適任だろうと判断されました。しばらくは彼と行動を共にして下さい」

「は、はい」

 生徒が先生。何だか豪いことになってしまった。

 彼の家庭環境という言葉も、もの凄く気になるし・・・。

「よ、よろしくお願いいたします」

 戸惑いながら花純が頭を下げると、またも爽やかな笑みが返ってきた。その笑顔を見て『彼はモテるだろうな~』何て不謹慎にも思ってしまった。

「こちらこそ」

「では、後はよろしく」

「あ、ケニーさん。ありがとうございました」

 ケニーにも頭を下げる花純に、ナオヤは柔らかい笑みを浮かべた。結構好みの女性だ、と。

「辛いこともあるかと思いますが、頑張って下さいね。何かあれば私の部屋においでなさい」

「・・・はい」

 ケニーは花純の頭を撫でてから、その場を後にした。

 この歳になって頭を撫でられるとは思わなかった花純は、照れ臭そうに自分の髪を押さえる。

「行きましょうか」

 花純の鞄を持ってナオヤが先に歩き出した。

 花純は小走りになって、彼の隣に追い付く。

「あ、あのっ! 鞄、自分で持ちます」

 ナオヤはちらりと花純に視線を向けてから、再び前へと向いた。ふっと笑んでから、口を開く。

「駄目ですよ。女性に荷物など持たせたら、私が母に叱られます」

 母・・・。彼はもしかしてマザコンか?

 こんなに恰好いいのに・・・・・・マザコン。

「一応言っておきますが、僕はマザコンじゃないですよ。この世界では母を敬うのは当たり前のことですからね。日本とは違います」

 日本・・・。彼からその言葉を聞くとは思わなかった。前もって花純が日本人であると、教えられていたのだろうか?

 彼と二人で建物の中に入ると、数人の学生と擦れ違う。皆好奇心旺盛な視線を隠しもせずに見詰めてくるから、こちらの方が戸惑う。

 本当に小さい子から大人みたいな人までいる。男女関係なく交わっているので、もしかして寮は男女混合なのか?

「先に荷物を置いてから、寮長に挨拶に行きましょうか?」

「はい」

 多くの視線を浴びながら、階段を上った。

 上へ行くたびに人は斑になる。

「今ちょうど、夕食の時間が始まったところなので、皆はそちらの方へ向かったかな?」

 花純の考えが解かったのか、彼が教えてくれる。

 階段を上りきると最上階の三階に着いた。階段は中央部分にあって、各自の部屋は左右に分かれているようだ。

 ナオヤは迷わず右の道へ行く。

 その後を花純は無言でついて行った。

 一番端の部屋の前で立ち止まり、彼が振り向いた。

 年齢がいくつかは知らないが、花純より彼は背が高い。花純が百五十八センチなので、十センチ以上は高いだろうと思う。

「この部屋が花純さんの部屋です。ちなみに僕の部屋は隣ですよ」

(隣・・・、マジか?)

 男性と同じ寮というのも驚きだが、部屋が隣とか有り得ない。

 血気盛んな若い男女を同じ寮にさせるなんて、今まで問題が起こらなかったのだろうか?

「あ・・・、そう言えば自己紹介がまだだった。ちょっと舞い上がってんのかな?」

 照れ臭そうに頭を掻いて、ナオヤが苦笑する。

「和田直哉です。花純さん、これからどうぞよろしくお願いします」

 ワダナオヤ?

 え・・・? 彼は日本人なの?

 彼の自己紹介に驚愕し、瞳を瞬かせる花純だった。

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