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カイトは不安そうな顔で、花純を見詰めていた。
何故こうも花純は皆の気を惹いてしまうのか?
だがそう思った瞬間、自嘲気味にふっと笑んだ。
自分だって、花純の訳も解からない魅力の虜になった一人なのだと自覚したのだ。
別に美人でもないし、魅力的な身体をしている訳でもない。実際自分の目には、まだ年端もいかない成人前の女の子にさえ見える。
だが小さな女の子に、こんな心は芽生えないのも事実だ。
彼女には何かあるのだ。それが何かが解からない内に、すでに虜になっている。
彼女を見ると、とても楽しそうにしている。
自分の不安になる心も知らずに、興味を引かれた方にきょろきょろと視線を向けている。
(ナオヤだけでも厄介なのに、これ以上カスミを想う男を作りたくない)
この頃、急接近してきたヴィートも気になるところだ。
そして明。彼は一歩花純に近いように思う。同郷というだけで、いとも簡単に花純の心の中に入った男。彼も油断ならない。
そして今日、新たに加わったこの国の第三王子セブラン。彼もすでに花純の虜になったようだ。
ヴィートが言っていた、久方ぶりに笑顔を見たという言葉も気になる。
それにアルジネットの兄アルロンも何を考えているのか、いまいち理解出来ない男だ。
花純の周りには、個性的な男が多過ぎる。
これ以上花純を、人の目に曝したくない。
掴んでいた花純の腕を惹き寄せて、耳元で囁いて。
「カスミ、今日はやっぱり寮へ帰ろう?」
「え・・・・・・、でも」
花純がちらりと、兄のアルロンと話しているアルジネットに視線を向ける。
「でも、今日は・・・お呼ばれしてるから」
この世界で初めて出来た女の子の友達。その関係に、自らひびを入れたくない。
「心配で堪らないんだよ・・・」
珍しい声音に下げていた視線を上げて、花純はカイトの顔を見上げた。
眉根を寄せて、とても不安そうな顔をしている。こんなカイトの顔を見たのは初めてだ。
何がそんなに、彼を不安にさせているのだろう? もしかして自分は知らず知らずの内に、何かしてはいけないことをしてしまったのか?
元の世界でも普通に日本でしていたことが、他国ではタブーということもあった。それと同じように、何かしてしまったのかもしれないと花純は思った。
国王様主催の舞踏会でそんなことを仕出かしていたかもしれないという恐怖心で、花純の身体が小刻みに震えてきた。もしかしたら、咎められてしまうかもしれない。
「私・・・何かした?」
「これからしそうで怖いんだ」
カイトが口にして告げるくらいだから、余程のことなのだろう。
花純は思わず、こくんと頷いていた。
「陛下にご挨拶をしたら、すぐにここを出よう」
その言葉にも素直に頷く。
お城での舞踏会など、この先参加することなど出来ないだろう。煌びやかな世界を、この目に焼き付けておきたい。女の子なら誰でも憧れる光景が、ここにはある。
(少し・・・・・・、ううん。大分未練はあるけど、罰せられるよりはいいよね?)
「カスミ・・・、まだ残りたいのか?」
花純の様子から、カイトは何かを感じ取ったようだ。
「庶民の女の子の憧れの場所だよ? ここは。未練がないって言ったら、嘘になる」
「・・・・・・だったら今度俺の家で開かれる舞踊会に招待するから。今日は帰ろう?」
お城ほど大きな舞踏会ではないだろうが、またも参加出来るかもしれないということに花純は心が浮き上がった。
「・・・絶対だよ」
「ああ、絶対だ」
腕から手を話したカイトは、花純に手を差し出した。
花純はその手を取り、アルジネットの方へと向かう。
「アルちゃん、ごめんね。今日は寮へ帰るよ」
「はあっ? 何を言ってるのっ?」
信じられないというような表情のアルジネットに、花純も苦笑する。
「だって、カイト君が死にそうな顔をするんだもん」
「・・・・・・・・・」
アルジネットが胡乱な顔で、花純の傍らに立つカイトを見据える。
確かに先程より顔色が悪い。
「・・・・・・仕方がないですわね。でもいつかお泊まりにきていただきますわよ?」
「うん、いつかね」
アルジネットは再びカイトに視線を向ける。
「カイト様、誰かに後で我が家にカスミの荷物を取りに寄越して下さいませ」
「ああ、解かった。・・・すまない」
言葉少なにカイトが応える。カイトは花純以外の人間には本来、言葉を発することは珍しいことなのだ。
「カイト様。これは・・・貸し、ですわよ?」
カイトの心を読み取ったアルジネットが、意地悪くそう告げた。
カイトはそれには声を発せず、苦笑のみで返す。
「じゃあね、アルちゃん。今日はありがとう」
「ええ、ごきげんよう」
カイトに少々強引に手を引っ張られて、花純は壇上へと向かって行った。
「面白いね、あの子」
「どちらが・・・ですの?」
「ん~・・・、どっちも?」
兄の触手が動いてしまったようだ。これは厄介なことになった。でも面白そうだと、アルジネットはにやりと扇で隠した奥で笑みを作った。




