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恋人捜しは騎士団で  作者: 如月美樹
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 花純は結局五日も役所に宿泊した。

 学園から部屋と準備が整ったと連絡が入り、女性が迎えにきた。

「ケニー・ブランシェと申します。パンダニ学園の事務をしております。貴女の世話係を申しつかりました。よろしくお願いいたします」

 薄い茶色の髪を一つに括った、きちんとした身なりの女性だった。何処か無表情で堅いイメージ。水色の瞳が、それを余計に前面に押し出しているようだった。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 役所では何着かの普段着と寝巻を支給されていた。それを鞄に詰めて、足元に置いていた。この鞄も支給品だ。トランクのような硬い材質のもの。このままクローゼット代わりになりそうだなと花純は思った。

「馬車を用意しております。すぐに参りましょう」

「はい」

 花純は見送りに来てくれていたニールと受付の女性に視線を向ける。

「お世話になりました」

 何かと声をかけて、世話をしてくれたのはこの二人だ。

「何かあれば、またここに来て下さいね」

「はい」

 柔らかい笑みを浮かべるニールに、花純は何度慰められたか解からない。

 花純は名残惜しそうに二人を見て、そしてトランクを持った。

 ケニーが馬車の後ろの荷物を乗せるところを開けて待っていてくれた。

「ここに入れて下さい」

 花純にはちょっと高い。結構トランク自体重いので、必死になって持ち上げているとケニーが横から助けてくれた。

 いとも簡単に持ち上げられて、少々驚く。ケニーは大層力持ちのようだった。

「あ、りがとうございます」

「いえ」

 座席の方へ回り、扉を開けてくれた。

「どうぞ」

 花純は馬車に乗るのは初めての体験だ。ちょっとわくわくしながら、乗り込んだ。

「お願いします」

 座席の前方にある小さな窓を開き、御者にそう告げるケニー。すぐに馬車は動き出した。

 外にまで見送りに来ていたニールと女性に、花純は窓の側に寄り手を振る。

「お元気でっ!」

 数日しか関係しなかった二人だが、何故だか涙が出そうになった。

 馬車が角を曲がり二人が見えなくなってから、花純は前を向いてきちんと座り直した。

「私は学園で事務をしております。ですが、その他諸々、学生たちの相談もお聞きしております。寮長が男性ですので、便宜上私は女生徒を主に受け持つ立場です。何かあれば私のところまでどうぞ」

「はい」

 学園は王都の中にあるようだが、広大な敷地を要するので隅の方にあるらしい。役所とは真反対にあるらしいので、馬車でも到着するまでに時間がかかるとのことだ。

 移動時間もただ座っているだけでは退屈なので、ケニーは学園のことを説明してくれるつもりのようだ。

「パンダニ学園はただ今生徒男女合わせて千人弱通っております。その生徒すべて寮暮らしですので、寮の規模も果てしなく大きいです。学園も専攻によって建物が違います。まずは、その位置を覚えて下さい。迷った場合はむやみに動かず、近くの警備に声をかけて自分の位置の把握に努めて下さい」

 そう告げてから、ケニーは一枚の紙を差し出した。カラフルに色づけされた地図のようなものだった。

「これが学園の見取り図です。裏がこれから貴女が入ることになる寮の内部構図です」

 ケニーの言葉に紙の裏を見る。寮は三階建ての建物のようだ。三階の一番端のところに色が塗られていた。

「赤く塗られている個所が、貴女のこれから住むお部屋です」

「何人部屋ですか?」

「部屋はすべて個室です。ですが、なるべく整理整頓は心がけて下さい」

 要するに散らかすな、ということだろう。

 千人程も学生がいるのに、すべて個室とは豪気なことだ。学園に通えるのは、もしかしてお金持ちのご子息やご息女だけなのだろうか? それなら納得出来る。

「今学園は六つの課程に分別されています。必要によってまた課程が増える場合もありますが。初等課、高等課、特級課、騎士課、医師課、文官課です。初等課、高等課は普通の学問を学ぶ場です」

 他は説明して貰わなくても、この世界が解からない花純でも理解出来る。

 花純は無言でケニーの話に頷いた。

 では自分は初等課に通うことになるのか?

「貴女は落ち人ですので、しばらくは専任の教師をお付けすることになりました」

 何と、マンツーマンで教えて貰えるのか。ちょっと気まずい感じになりそうだ。覚えが悪いと最悪になりそうな予感がする。

「まずはこの国ダコタ王国の歴史。一般常識からでしょうか? その後、文字を学ぶことになりそうです」

 覚えなければならないことが多そうで、はっきり言って今から頭が痛い。

「日本語の辞書もありますし、そう難しく考えないように。ゆっくり学べばいいですよ」

 冷たい印象のケニーだったが、本当は優しい性格の持ち主のようだ。

 この五日で自分なりに考えた。もう日本へ帰れないのなら、この世界に馴染むしかない。自分に何が出来るか、ゆっくり学生でいる間に見極めようと思う。

「よろしくお願いいたします」

 花純は再度ケニーに頭を下げた。

 顔を上げれば、ケニーの微笑みが待っていた。

 彼女も落ち人を担当して少しばかり緊張していたのだと、今解かった。

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