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店を出ると、アルジネットの護衛の一人が側に寄ってきた。
「アルジネット様、後をつける者がいるのですが」
「狩ってきなさい」
アルジネットの言葉遣いに、花純はビクリとする。
『狩る』って言う言葉。実際に使うものなのか?
まあ、『殺れ』よりはいいか。
しばらく佇むこと数分。二名ほど護衛が男を連れてきた。
「離せよ~」
一人は激しく抵抗している。もう一人は素直に従っているようだ。
そのあまりにも見知った顔に、花純は驚愕する。
アルジネットの方が、すでにげんなりした顔だ。
「申し訳ありません。二名ほど逃げられてしまいました」
「もういいわ。離してあげて」
護衛が二人を離すと、激しく抵抗した方の男オレグが花純の腰に縋りつく。
「カスミ~ッ!」
もう一人、クリースも花純の側に歩いてきた。
「お知り合いでしたか?」
「はい・・・・・・、お手数をおかけしました」
花純は護衛に素直に謝り、頭を下げる。
胡乱な瞳を向けられて、場の空気を読めないオレグもさすがに花純の腰から離れる。
「他二名って・・・・・・」
「カイトとゴードンだよ」
クリースの言葉に、少し離れた路地に目をやると隠れきれていないゴードンの顔が半分見えていた。
ちょいちょいと手招きすると、二人はすごすごと目の前までやってきた。
カイトは素早く花純の手を握る。
「・・・・・・何、やってるのよぉ」
もう花純は半泣きだ。
「・・・心配だった」
カイトは少しは反省しているのか、声がいつも以上に小さい。
「アルジネット嬢から虐められたって聞いていたから、ついて行こうってなったんだよ」
やはり場の空気を読めないオレグの言葉に、アルジネットの頬が片方ピクピクと上下する。
護衛たちもそんなアルジネットを、少し非難の混じった瞳で見詰めた。
「ど、何処までカスミ中心の生活をしていますの・・・?」
確かに・・・。せっかくのお休みなのに、少しは自分のことに費やして欲しい。
「ナオヤがいない時は俺たちが・・・、みたいな使命感があるんだよな~」
ゴードンの言葉に、花純もため息が零れる。
「ま、まあ・・・いいですわ。カスミ、ここで解散いたしましょう。来週は忘れないよう、お願いいたしますわ」
「う、うん。今日はありがとうね」
目の前までやってきた馬車に乗って、アルジネット様ご一行は華麗に去って行った。
「来週って・・・・・・、何だ? また何か約束したのか?」
問い詰められるだろうとは思ったけど、ここまでとは。
必死の形相で両腕を掴まれて、真剣な瞳で覗き込むカイト。はっきり言って、ちょっと・・・怖い。
あまりにも必死過ぎて・・・超怖い。
「来週はアルちゃんのおうちにお呼ばれしたの」
これ以上は言わないでおこう。言ったら最後大変なことになりそうで、またまた怖い。
カイトは無言でしばらく花純の顔を覗き込み、ようやく離してくれた。だが手はいつもと同じ、繋がれてしまったけど・・・。
皆きっと何かあるなという顔をしているので、来週までにはすべて知られてしまいそうだけど。
でもなるべく自分からは言わないでおこうと、花純は秘かに思った。
花純の目の前にも馬車が停まる。
(あ、これ。カイト君の家の・・・)
そう思っていたら、以前と同じ御者さんが目の前に現れた。
「お久しぶりでございます、カスミ様」
「お久しぶりです、こんにちは~」
そう返事すると、にこやかに微笑み扉を開けてくれた。
この馬車に体格のいい男の子四人と花純では、少々手狭ではないか?
そう思っていると、クリースが声を出した。
「俺とオレグはここで別れるよ。一度店へ寄りたいから」
「解かった」
ゴードンが応えている間に、花純は少々強引に手を引かれて馬車に乗り込んでいた。
ゴードンも馬車に乗り扉が締められる瞬間、クリースが手を振りながら声を発した。
「カスミッ! 今日はごめんねっ」
花純が目をやると、クリースが苦笑した。
多分、この計画はカイトが立てたものだろう。他の三人は、カイトの犠牲者かな? と花純は思ってしまった。
今度こそ扉が閉められ、ゆっくりと馬車は学園へと向かう。
途中、馬車の中は無言で空気がピリピリしていたのは言うまでもない。




