表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人捜しは騎士団で  作者: 如月美樹
3/65

 電信を読んだ騎士団団長レウォンはすぐに長山明を呼び寄せた。

 この頃、彼は次に掃討する山賊の攻略方法を考えるのに夢中なのだ。国境近くにあるパシラ山は山賊たちの拠点になっていた。この頃は隣国と交易する商団を襲うという、被害届が頻発していた。それを重きこととして受け止めた政府は、騎士団に掃討する命を下した。

 明は優秀なのだが、こういった指令を出されると嬉々として様々な作戦を考え出す。それは我らダコタ国の人間では考え付かないものが多いので重宝されていた。

「団長・・・・・・いつも邪魔するなって言ってるだろ?」

 執務室の扉を何の窺いもなく突然開ける明に、レウォンは苦笑するが副団長であるバンクス・サミュエルソンはそうはいかなかった。

 明は明らかに不機嫌そうな顔だ。

 バンクスは目尻を上げて、説教を繰り出した。

「アキラッ! お前ね、いつも言っているだろうっ? 上官の執務室を訪ねる時は伺いを立てろとっ」

「・・・・・・面倒臭せぇ」

 舌打ちでもしそうな明に、バンクスはさらに声を上げようとするがレウォンがそれを止めた。

「まあ待て、確かにアキラも今は忙しい時期だ。だけどな、アキラ。今回は、お前にとってもいい知らせだよ」

 いい知らせと聞いて、明は器用に片眉だけをひょいと上げる。

「何? 何か問題でもあった?」

 まるで問題が生じた方が面白いというような顔で言う彼を、バンクスは呆れたような表情で見据える。

「新しい落ち人が来た。日本人で女性らしい」

 電信で送られてきた書類を明に差し出す。

 素早くそれを奪い取り、目を通した。

「女・・・しかも十八歳っ? おほ~っ! もろ、守備範囲内じゃんっ」

 先程までの不機嫌は何処へ行ったのか、もの凄く楽しそうだ。

「会いたいなら役所に来いということだ。学園に入ると寮に入居させられるだろうからな。しばらく会うことは難しいぞ」

「今から行ってもいい?」

「今っ? 今は勤務中でしょうがっ」

 バンクスの言葉を、レウォンは再び手を上げて止めさせる。

「構わない。行ってきていいぞ、アキラ」

 その言葉が終るか終らないかの内に執務室を飛び出した明に、バンクスの怒鳴り声が追いかけるように木霊する。

「こら~っ! アキラッ」

 このやり取りはもう毎日のようなものなので、レウォンは苦笑しながらも見守っていた。

「団長、あいつの態度は目に余るものがあります。確かに実力は持っておりますが、これでは他の騎士たちに示しがつきません」

「まあ、そう言うな。あいつは生粋のダコタ人ではない。異界からきた落ち人だからな。我らの常識を押し付けるのはよくない」

「団長・・・甘過ぎます。あいつがこの世界へ来てもう十年ですよ。少しはこちらのことも考えさせるべきかと思いますが」

「そうか。もう十年になるか・・・」

 穏やかな性格の持ち主、騎士団団長レウォン・ドゥヴィリエは今年四十二歳を迎える。騎士たちのよき父代わりになりつつある年齢だった。実際来年あたり、自分の息子が騎士学校を卒業し入隊してくる予定だった。

「どうしてもアキラが来た時を思い出してな・・・、つい甘くなってしまう」

 ここに来たばかりの明はまだ子供で、酷く脅えていた様子だった。まだこの世界の常識を教えるという制度もなかった為、何も解からずに世間に放り出された明に手を差し伸べたのはこのレウォンだった。

 レウォンの元で騎士団の手伝いをする内に、会議で議題に上がった問題をいとも簡単に解決への道を見つけたのが最初のきっかけだったと思う。非凡な才能を持つ彼は、それからあっという間に参謀という地位を勝ち取った。

 ようするにその時の参謀が、明の才能に白旗を上げたのだ。今は明のよき相談相手として、彼の下についている。

「まあ・・・・、大目に見てやってくれ」

「・・・仕方ないですね」

 バンクスもさすがに直々に団長から請われると、それ以上何も言えなくなってしまう。これもいつものことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ