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朝食を食べ終えて、花純は直哉と二人で街へと繰り出した。
王都の街とそう大して変わらない雰囲気に、少しだけほっと息を吐く。
日本だって大都市はそう変わらない。それと同じなのだろうと思う。
でも店を覗き込むと、少しだけ物価が安いような気がする。
「花純さんは何が好き? どんなものに興味があるの?」
直哉の質問に、これは言ってみるべきかと思った。
「実はね、今まで言えなかったんだけど・・・女の子の必需品が欲しいな・・・って」
花純がそう告げると、直哉は顔を真っ赤にして少しだけ視線を逸らした。
直哉が何を想像したのか、その顔を見ただけで解かってしまった。
「あ、あ、あのね・・・。そういうのじゃないよ? お化粧品とか、石鹸とか、いいものがあるのかな? とか?」
赤い顔の直哉を見ていると、花純まで動揺してしまった。
「・・・ごめん、それは僕じゃ解からないよ。そうだよね・・・。学園でも女の子の友達・・・いないもんね。僕たちがガードしまくってたから・・・、それどころじゃなかったし」
直哉は反省したのか、情けないような声を出した。
「あ・・・、全然嫌じゃなかったよ。直哉君たちのお話は凄く面白いし、守ってもらえると安心出来たし」
でもこればかりは、確かに直哉では解からないことだろう。
「お店を教えてくれたら、店員さんにもいろいろ聞けるだろうし・・・。だから大丈夫だよ」
「母さんにも相談してみようか? 何処の店がいいか」
「うん」
今日は街をぶらぶらして、雰囲気を楽しむことにした。
いつものように花純が迷子にならない防止の為に、直哉と手を繋いでいる。
迷子にはならないと思うのだけど、そういう不満は口からは出て来なかった。
王都でもそうだったけど、男の子たちがもの凄く不安そうな顔をするのだ。
そう告げることが、花純の我儘みたいなイメージを持ってしまうほどに・・・。
皆何を不安に思っているのだろう?
花純はもう十八歳の、この国でいうところの成人した女性なのに・・・。
それとも女性を攫う犯罪が多いのだろうか? そうだと少し怖いので、手を繋いでいて貰った方が安心する。
この世界に来て学園に通うようになってカイトがずっと手を繋いでくれていたので、もう慣れてしまったけど最初はもの凄く恥ずかしかったことを思い出してしまった。
慣れは怖いな・・・と花純は思う。
「おお~っ! カスミちゃんっ! お散歩か?」
街の見回りなのか何かなのか、コイルが向こうの方から駆け寄ってくる。騎士団の制服を着ているからか、昨夜より恰好よく見えるから不思議だ。
剣も腰に佩いていて、彼が騎士なのだと厭でも実感させられる。
「直哉も一緒なのか? ・・・・・・何で手、繋いでんの?」
「花純さんはこの街は初めてだから、迷子防止」
そう告げる直哉の顔に、コイルは胡乱な瞳を向ける。
「ただ単に手を繋いでいたいだけじゃないの?」
「・・・・・・・・・っ!」
そう指摘されて、確かにそうかもしれないと自覚させられた。
最初は落ち人だから虐げられたりしたら、可哀想だなんて思っていただけだった。
自分も実際、落ち人の血が半分流れているというだけで虐められたりしたから。花純にだけは、そんな思いはして欲しくないと思った。
でも今は・・・・・・。
(僕、もしかして・・・・・・花純さんのこと、好きなのかな?)
心の中で呟いてみると、何もかも納得出来る。
異常に過保護なのも、好きだから・・・?
そう思うと繋いでいる手の状態が、もの凄く恥ずかしく感じる。俄かに汗も掻いてきた。
「コイルさん・・・・・・近いですぅ」
花純の困ったような声に、直哉はハッと我に返り二人を視界に入れる。
コイルが自分の腰に手を当てて、花純の顔を覗き込んでいた。今にもキスしてしまえそうなほど距離が近い。
花純は手を顔の前で翳し、身を仰け反らせている。
「こらっ! コイルさん、止めろってっ」
コイルの顎をグイッと押しやり、花純の身体を片手で抱き寄せる。
「ぐわっ! いっちょ前に・・・。・・・それ、もの凄く羨ましい光景だな」
コイルが身を離すと、直哉は花純を両手で抱いた。そしてコイルに威嚇の目を向ける。
(いっちょ前に男の目をしてやがる。これは侮れんな・・・)
まだ十三歳の直哉に、何となく敗北感を味あわされる。
「ちっ! 色気づきやがって。まだ十三歳の鼻たれが・・・」
「明日で十四歳だよっ!」
「あんまり変わらねぇな~・・・」
からかうように告げると、直哉の顔が怒りで赤らむ。
「今巡回中だろっ! 早く行けよっ! 皆待ってんぞっ」
コイルの背越し、少し離れたところでは数人の騎士がこちらをにやにや笑みながら眺めているのが見えた。
「俺、今度小隊の隊長に昇進するんだよ。カスミちゃん、ご褒美に何処か行こうよ」
「何処にも行かない。それに何の御褒美だよっ?」
花純の代わりに、直哉がすぐさま応える。
「お前は親かよ・・・。まあいいや、じゃあまたね」
直哉に向ける瞳とは一変して、花純には笑みを浮かべて手を振り仲間の元へと帰って行った。
「・・・・・・・・・危なかった」
本当にキスされるかと思った。
「怖かったね、大丈夫? 花純さん」
「う、うん」
クリスター滞在は、何だか波乱に満ちたものになりそうな予感がした。




