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王都の隣街クラスターは、とても大きな街だった。直哉に聞くと、王都に次ぎに大きな街らしい。クラスター行きの乗合馬車だったので、全員降りるようだ。
直哉が花純の荷物も持ち先に降りて、自分の荷物を地面に置き花純に手を貸す。とことん女性を大事にする姿勢は、多分母親の教育の賜物だろう。お父さんは日本人ということなので、そういう気遣いは皆無だと思われる。
「ありがとう」
花純が笑顔で礼を告げると、直哉は笑顔で頷いて自分の鞄を持ち上げた。
その中には、王都からのお土産がたくさん入っているようだ。花純の荷物より大きい。
今回花純が持参した鞄は、直哉が買ってくれたものだ。
男の子たちと休日に出かけた時に贈ってくれた。
『この世界に来てくれて、ありがとう』という、よく解からないお礼という名目で五人の男の子たちにそれぞれ何かを買って貰った。
直哉は今回の鞄。二、三日旅行が出来るくらいの大きさのものだ。やはり四角いものでトランク型。
カイトはちょっとしたお出かけ用のポシェットを買ってくれた。キャメル色の革製で、白いお花が前についている。
ゴードンは髪飾り。やはりお花を模ったもの。
どうやら女の子にはお花をというのは、何処の世界でも同じらしい。
オレグはペン軸がついた筆記具。何と羽ペン以外にも筆記具はあったようだ。
クリースはオレグに合わせたのかインクだった。でも中身が黒ではなくて青だったのには驚いた。『いろんなインクがあるんだよ』とクリースは教えてくれた。
肩からの斜め掛けでカイトがくれたポシェットをして、手には直哉がくれた少し小ぶりのトランクを持って部屋を出ると荷物を取られてしまった。
そして今もトランクは直哉が持ってくれている。
「直哉君、やっぱり私持つよ?」
「花純さん。前も言ったと思うけど、女の子に荷物なんて持たせてるの母さんに見られたら僕が殺されるよ」
どうやら直哉のお母さんは怖い人のようだ。これからお世話になるのに、少しばかり不安になる。上手くやっていけるかな? と。
「僕の家は街の中心近くにあるんだ。結構距離があるから、また街を巡回する乗合馬車に乗り替えるからね」
王都からこの街まで同じ馬車を乗ってきた多くの人も同じ場所を目指して歩いていることから、皆乗合馬車に乗ると推察した。
街を回る乗り馬車は天井がなく、縦に三本長い木の椅子があるのみのものだった。
その中に花純たちも入り座る。ぎゅうぎゅうのすし詰め状態だ。
「雨が振る時は上に幌がつくんだよ」
直哉が親切にも説明してくれた。
街はどんどん暗くなっていく。それに比例して店先に火を灯す人たちをよく見かけた。
馬車が動き出す。ゆったりのんびりカポカポと進んでいく。
馬車の停留所がいくつかあって、何個目かで直哉が『降りるよ』と教えてくれた。
直哉にまたしても手を借りながら降り、御者のおじさんに二人分の料金を払う。
「行こうか。もう店は始まっているから、裏から入ろう」
「うん」
綺麗な紺色と黄色とオレンジ色に空が染まっている。星も月も綺麗に輝く空はとても綺麗だった。
日本にいた頃はそんなに空を見上げることなんてなかったけど、ここではよく見上げる。
テレビも携帯もパソコンもない世界。
長い夜を過ごすには本を読むか、それとも空を見上げることしかすることがない。
ゆったりと時間が進むこの世界が、花純は好きになり始めていた。
始めは、どうして自分がこんな世界に来てしまったのだろうと泣いた日もあった。
家族や友達とももう会えないのだと、寂しくて心細くて幾夜も泣いた。
でも泣いていても、どしようもないのだと気付いた。
前を向いて進んでいこうと、涙を拭いながらそう決心した。
多分家族はすごく心配していると思う。自分を捜して捜して、それでも見つからなくて。何があったのだと、もしかしたら自分を責めているかもしれない。それでもいつかきっと立ち直ってくれる思う。
自分は親切な人たちがいるこの世界に来られて、幸せだと思うことにした。
自分に何が出来るか解からないけど、出来ることを捜して幸せになる。
その為には、今はとにかく勉強が必要だ。
この世界のことは、何も知らないのだから。
「花純さん、こっち」
花純は少し離れてしまった直哉の側に駆け寄った。




