20
花純の学力試験が行われた。場所は直哉と勉強した第三会議室。試験官はケニーだ。付き添いで直哉がいてくれたので、花純としては気負うことなく試験を受けられた。
しかも試験も教科により日本語とダコタ語に別れており、そつなく受けることが出来た。
「はい、時間です。お疲れ様でした」
ケニーに声をかけられて、花純はペンを置いた。こちらの世界の羽ペンにも大分慣れたと思う。
「結果は来週です。それまでは休んで下さい」
「はい。ありがとうございました」
ケニーは先に答案用紙を持って会議室を出る。
数日に分けての試験がすべて終え、ほっと安堵の息を吐き出す。
こちらの言葉の表を持ち込むことが出来たので、答案はすべて埋めることが出来た。
驚くべきことにあの表は、明が作成したとのことだ。
大分苦労して作っただろうと思われる。明には感謝しなくてはならないなと、花純は思った。
週末の休みまでは三日ほど猶予があった。花純は結果的に四日半のお休みを得たことになる。
「花純さん、お疲れ様。ちょっと休みも長いから僕の家へ泊まりに来ない? 花純さんの話をしたら、両親が是非に会いたいって」
両親に手紙でも書いたのだろうか? 直哉は嬉しそうに、そう報告してきた。
だがそろそろ直哉も本業に戻るべき頃だと思われるが・・・。いつまでも花純に付き合わせるのは申し訳ない。
「花純さんの指導のご褒美に、僕もお休みを貰えたんだ。それを利用しない手はない。母が花純さんも女の子の友達がまだいないだろうから、いろいろ話が聞きたいんじゃないかって言ってたよ」
そうだ。いろいろ女の事情で聞きたいことがあるのだ。
年上の女性の方が聞きやすいかもしれない。ここは直哉のお言葉に甘えるのが得策だと思えた。
「・・・じゃあ、よろしくお願いします」
そう告げると、直哉は嬉しそうに微笑んだ。
その日の昼過ぎ、隣町クラスターに向かう乗合馬車に乗り込んだ。
初めての乗合馬車に、花純は興味深そうにきょろきょろ見る。馬車は後ろ部分に階段がついていて、乗り易かった。しかも先に乗った男性が手を引いてくれるので、とても楽だった。
この世界の男性は、女性にとても優しい。
この世界で初めて降り立ったのが王都だという幸運。
花純は初めて王都の外へと出る。それに、ちょっとだけ緊張していた。
直哉の両親に会うのも初めてだし、余計に緊張は増す。
こんなにいい子の直哉を育てた両親なのだから、絶対いい人だとは思う。
だが花純は結構人見知りするたちなのだ。他の人には、それは伝わりにくいようだが。
馬車の中は二人がけの木の椅子が横二列、前後に十列ほどある。花純は直哉と並んで座った。王都が出発点なので、座れてよかった。
陽が暮れる頃には着くそうだ。
隣に座る直哉が何かを思い出したようにくすりと笑う。
「僕たちがクリスターに行くって言った時のカイトの顔。面白かったね」
花純もその時のカイトの顔を思い出して、直哉と同じように笑った。
苦虫を噛みつぶしたような顔とは、ああいう顔を言うのだろうなと思う。
何度も花純と直哉の顔を交互に見て、何か言いたそうにしていた。
「あの調子なら休みの日に僕の家へ来るかもね」
たった一日しかないお休みに、わざわざ隣町まで来るだろうか?
花純は首を傾げて、直哉を見詰めた。
「花純さんはえらくカイトに気に入られたね」
「そ、そうかな・・・・・・?」
何処がどうなってそうなったのか解からないが、カイトが自分のことを気にしてくれていることには気付いている。いくら花純が鈍感だって、それくらいは自覚している。
「・・・妹って思ってるのかな?」
もしかしたらカイトは妹が欲しかったのかもしれない。
「さあ、どうだろうね」
何処か含みのある直哉の言い方に何か解かっているのかもしれないと思ったが、詳しくは突っ込まなかった。




