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恋人捜しは騎士団で  作者: 如月美樹
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 副団長バンクスは目を吊り上げて、団の若き騎士たちの救済に挑む。

「貴方は今は独身とはいえ、一度はご結婚された身。今回はお諦めを」

 急に言葉遣いを直されても、今更感が半端ない。

 一同、あまりにのことに呆気に取られている。

「それよりも今は如何に騎士たちの妻候補を勝ち取るか・・・です、これは、大変重要な案件ですよ」

 バンクスの言葉を、にこやかな表情で頷きながら聞くレウォン。

「そうだね。騎士たちは女性からの人気は絶大だが、妻となると別だからね」

 今は他国と和平条約を結んでいるので戦はないが、数年前まではこの国も穏やかではなかった。先の戦では、多くの騎士たちが戦死した。親たちはその記憶があるからか、愛娘たちを騎士の妻にしたくないと思う者が多かったのだ。

「そうだ。カスミ、君も試験に合格すればうちへ来ればいい。大歓迎だよ。特に若い子はね」

「彼女を事務員にでもする気ですか?」

 バンクスの質問に、上乗せするように言葉を重ねる。

「事務でも、賄い方でも、掃除婦でも・・・・・・。あ、私の秘書でもいいよ」

 最後はもの凄い満面の笑顔で告げられた。

「女性は戦には参加させないから、その辺は安心して」

「はぁ・・・・・・・・・」

 花純にそう応える以外何が出来ただろうか。

 とりあえず有り難い申し出なので、就職先がどうしてもない場合はそうさせてもらおう。国で雇ってもらえるということになるのだろうし、そう労働条件としては悪くないだろうと思える。

「学園の試験次第ですが・・・、考えさせていただきます」

「花純ちゃんはまだこの世界に全然慣れてないんだから、もう少し学園で学んだ方がいいよ」

 明の言葉にも頷く。

 確かに本格的に街に出たのも、今日が初めてだ。それなのに、急に世間に出るにはまだ勇気がない。少しづつ外に出て、学園という守ってくれる安全な場所へ帰れる機会を大いに利用しない手はない。

「学園というと、寮は何処だい?」

「第三寮です」

 直哉の応えに、レウォンは眉を器用に上げた。

「おや・・・、うちの息子と同じだね」

 騎士団長のご子息が同じ寮だと聞いて、花純はカイトを見上げた。

「カスミさんも食堂で一度だけ会ってるよ。金髪で緑色の瞳をした真面目そうな人」

 何人か会ったことはあるが、一斉に現れたから誰が誰だか理解していない。それに皆名乗ってもくれなかった。名前を教えてくれたのはベイツだけだ。

「息子は真面目そうに見えるのか」

「ヴィートは解かりやすい好青年ですよ、団長」

 明の言葉にレウォンは何処か嬉しそうだ。

「あれは母親に似たから美系なんだよね。・・・そうだ。カスミ、あの子のお嫁さんにならない?」

 再度の結婚の勧めに、花純も誤魔化すような苦笑を浮かべる。

「あ~っ! もうあんまりしつこい勧誘は止めて下さいよ。もう行きますよ」

 明に手を引っ張られた瞬間、またもレウォンは言葉を紡ぐ。

「ヴィートには知らせておくから、挨拶にきたら相手をしてやってね。じゃあ」

 明が何かに気付いたように、レウォンの手を取りながら少し離れた所から叫んだ。

「直哉にカイトッ! お前ら体格がいいんだから、学園卒業したら騎士団に入団しろよっ」

 そう告げてから明も笑顔で手を振り、何処かへ行ってしまった。

「・・・・・・団長さん、気さくな人なんだね」

「俺たちも直接話すなんて初めてだよ」

「凄い人なんだぞ、あの人は」

「生徒で憧れない者はいない」

 カイトの言葉に、花純も頷く。

「直哉君とカイト君は、騎士団に入るの?」

 直哉が少し複雑そうな顔をして、首を横に振った。

「僕は高等課を出たら特級課へ行くつもりなんだ。特級課はいろんな分野を研究出来るからね。料理の研究をするつもりなんだ。食材の栄養素の研究も出来るし・・・。その後は父さんの店を継がなきゃ」

 直哉が言った『継がなきゃ』の言葉が気になる。もしかしたら彼は別の夢があるのかもしれない。だけど両親のことを思って、それを口に出来ないのかも。

 明はもしかしたらその辺の直哉の複雑な気持ちを察して、騎士団に誘ったのかもしれない。

 でも花純が口を挟んでいいことではない。

 まだ自分はこの世界のほんの一部分も知らないのだから。

「カイト君は?」

「・・・・・・・・・俺は、カスミさんが騎士団に入るなら・・・考えてもいい」

 皆が口をあんぐりと開けてカイトを見詰める中、花純だけは何で? などと思って首を傾げていた。

「カイト君、せっかく高等課まで通わせて貰っているんだから就職先は自分でちゃんと考えた方がいいよ」

 あまりの花純の鈍感さに、皆が天を仰いだ。

「・・・・・・そうだな。ちゃんと考える」

 うんと頷く花純に、カイトは笑みを浮かべた。

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