18
明はにこやかな表情で自分の前に立つ直哉を見た。
「お、お前・・・またでかくなりやがったな」
この世界の人間は背が高いのが特徴だ。明も決して背がい低い方ではない。だが骨格からして違う人種には敵わない。
しかも相手は成長期真っただ中だ。
二十七歳である明は成長が止まってしまったが、目の前の少年は違うだろう。この身体の大きさだから日本的に考えて、少年と言ってしまうのはちょっと苦しいところがあるが・・・。
直哉の横に立つ男に目を向けた。
「んじゃ、お前はカイトか? 懐かしいな」
何度か直哉の父が経営する日本食レストランで会ったことがあった。
カイトは子供の時から大きい身体だった。確か直哉と三つ離れていたと記憶している。
「・・・・・・んで? 何でカイトは花純ちゃんと手を繋いでいるのかな?」
ちらりと目に入った二人の間の手。仲良さそうに、ずっと会話している間も手を繋いだままだ。
「カスミさんは初めて街に出るから・・・・・・。迷子になる」
十八歳の女性に向かって迷子とは・・・。
だが今日は自営業以外の多くの人間はお休みの日だ。街には人が溢れ返っている。
花純は身体が小さいし、もしかしたら彼らには幼く見えるのかもしれない。
それで心配しているのか?
そう思うが、明は気に入らない。
「とうっ!」
そう叫びながら、明はカイトの親指辺りに手刀をくらわし叩き落そうとした。
だがカイトは顔を歪めることさえせず、いまだ平然と花純と手を繋いだままだ。
痛くないのか? と反対に、明の方が顔を歪ませる。
突然の意味不明の明の行動に、花純は驚いて瞳を瞬かせている。
目を見開いて花純が明を見上げたので、ちょっとだけ怒りが治まった。
「花純ちゃんは、いまパンダニ学園に通ってるんだな」
「はい。今、直哉君にこちらの世界の常識を教わっていて、来週くらいに学力テストをしようかって・・・」
実は少しばかり緊張していた。どんな問題が出るのかも知らされていないので、心臓が地味にバクバクしている。
「はあ? 直哉に教わってんの? 大丈夫か?」
「・・・・・・心外だな。明さんにそう思われてたなんて」
直哉が少しばかり拗ねた声を出す。
「ちょっと前まで鼻たれ小僧だったからな。それなのにいつの間にか、こんなにでかくなりやがって・・・」
恨みがましい瞳で、じとりと直哉を見据える。まだ自分より低い身長だが、抜かされるのも時間の問題だろう。カイトなど、もう明より身長が高い。
「拓哉さんも結構こちらの世界のことはいい加減なところがあるからな。お前、何が日本式か判断出来るの?」
「一応母さんの教育も受けているから大丈夫だと思うけど・・・」
「いや直哉、結構ごちゃ混ぜになってるぞ。俺たちは長い付き合いだから、何となく解かるけど」
「突っ込むのもいちいちやってられないしね」
「・・・・・・マジで?」
「ほら、今のもっ!」
そう言いながら皆で笑った。
「こら~っ! アキラ。お前ね・・・。団長を放ったらかして何処行く気だっ」
男性の叱責に皆が口を瞬時に閉じた。
皆の視線は怒鳴っている男性ではなく、ゆったりと微笑みながらこちらに歩み寄る男性に向けられていた。
「おい・・・、あれって」
「ああ、レウォン・ドゥヴィリエ公爵だ」
「騎士団団長だ。恰好いい~」
騎士団団長? もしかして凄く偉い人なのではないか? 公爵って言ってたし。
と、花純は男性のことをじっと見つめた。
「やあ、こんにちは。君たちはパンダニ学園の生徒たちかな?」
「「「は、はいっ!」」」
皆が緊張して返事をする。直立不動で姿勢を正して返事する姿が、ちょっと笑いを誘う。
頬を染めて団長を見る顔は、憧れの人を前にしているように見える。騎士団団長というのは、少年たちの心を擽る対象らしい。
「おや・・・・・・、君は」
「あ、初めまして。花純・野々宮です」
「カスミ・・・・・・、やはり君が今回来た落ち人だね」
「はい」
騎士団団長というからお堅い人だというイメージがあったけど、結構気さくな人のようだ。
「ふむふむ」
と言いながら、花純に近付いてきた。
「・・・可愛いね。君、学園を卒業したら私のお嫁さんにならない?」
「「「「「「「な・・・・・・・・・っ?」」」」」」」
皆が驚愕する中、花純の手を取るレウォン。
手の甲にチュッとくちづけられて、花純は上体を仰け反らせた。
新手のナンパか?
「だ、団長・・・?」
「おっさん、何言ってんの? 花純ちゃんは俺の彼女になる予定なんだから、年寄りは手を出すなっ」
動揺しまくる副団長の声に被せるように、明が威嚇の声を発する。
「アキラッ! お前いい加減斬るぞっ! ・・・いや、その前に。団長、冗談はよして下さいね」
「いや・・・・・・、割と本気なんだが。私だって一応独身だし」
バンクスはレウォンの言いように、開いた口が塞がらない様子だ。
「あんた自分の息子より若い嫁貰う気かっ?」
それが本音か・・・・・・バンクス。
皆がそう思ったが、誰も口には出さなかった。




