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明はようやく山賊討伐作戦の目途がつき、纏め上げた書類を持ってふらふらになりながら騎士団長の執務室へと向かった。
一応扉を叩き返事も待たずに開くと、鬼のような形相のバンクスが仁王立ちになっていた。
「アキラッ! お前また・・・っ」
「こっちは連日の徹夜続きで、それどころじゃないんだよ。小言も勘弁してくれ。寝不足の頭に響くから」
明は二人のいつものやり取りを、にこやかに笑い見ている騎士団団長レウォンの元に書類を持っていった。
「待たせたな。市民の被害なくって無茶振りを攻略する為には、この方法しかないと思う。多少卑怯って言われるのは覚悟してくれ。まあそう言うのは盗賊だけだと思うけどな」
騎士団の長であるレウォンに対し、この横柄な態度に言葉遣い。
明のこの態度に、副団長のバンクスが切れた。
「お前ねっ! その言い方何とかならないかっ? 団長に対してそれはないだろう?」
この男は解かりやすい。すぐキレるし。
それに対して団長の心は読めない。いつもにこにこしていて気持ち悪いし。
「俺はね。この世界に来てから性格がねじ曲がったんだよ。誰の知り合いもいない子供をポイッて放り出した世の中に、いたいけな少年がやさぐれるのは当たり前だと思うけどね」
優等生までとは言わないが、毎日誰に言われることもなく学校に通いそれなりに成績もよかった。ゲームが好きでクラブには入らず、学校から帰ったら部屋にこもってはいたが・・・。
まあ、それが幸いして今の地位があるんだけど。ゲームも馬鹿に出来ない。
「そんなにピリピリしてたら作戦も成功に導けないぞ。それに女にモテない」
女のところで、本気でバンクスが切れた。ブチっという音が明まで聞こえた気がする。
「・・・貴様っ! 表に出ろっ! 私が騎士代表としてお前を成敗してやるっ」
「はあっ? 何勝手に騎士代表とか言ってんだよ。俺はあんたのこと限定で言ったんだよっ! 騎士は普通モテるの。嫁は来ないけど、モテるのっ! あんたみたいに、キレやすい年寄りがモテる訳がないだろう」
わなわなと全身を震わせたバンクスが剣に手を伸ばしかけた時、トンと小さな音でレウォンが机を叩いた。
「「・・・・・・・・・っ!」」
その音に熱くなっていた二人が急に冷める。
「まあまあ、もう昼だし気晴らしに外にでも出ようか? 私が奢るよ」
小さな音だけでこの場を冷やすことの出来る男など、この国にはレウォン意外にいないだろう。
「・・・・・・ありがとうございます」
バンクスはいろんな意味での礼を告げた。
「俺、肉がいい。肉を食わせてくれ」
「解かった。良い肉を食わせるよ」
三人は街中へと繰り出す。その途中でも人気のある団長レウォンには、騎士たちからの挨拶が飛び交う。人当たりがいいレウォンは人気者だ。
明はこの常に笑んでいる団長が、不気味に感じる時がある。何を考えているのか解からない人物。明は騎士団の中で唯一謎の男に認定している。
「馬車はどうしますか?」
「近くだから歩いていこうか」
二人のやり取りを背後に、明は少し先を横切る黒髪の美少女を見つけて駆け出していた。
「花純ちゃんっ! 久しぶり~っ」
さらさらの黒髪が揺らしながら、こちらを振り向く。大きな瞳を瞬かせながら、明を見詰めた。
「あ・・・、明さん」
ああ、可愛い。癒される。
こちらの世界の女は背も高いし、骨太な体格の者が多い。
それに対して彼女はザ・日本人っ! と、いった感じでとてもいい。この世界に来て不安だからなのか、一歩引いた性格みたいに見えるのもまたいい。
花純は五人の男に囲まれていた。
男たちは背は高いが顔が幼く見える為、多分学生だろう。花純が通っているパンダニ学園の生徒たちだろうが・・・。癒し系の彼女にもう悪い虫が付き始めているのかと、明は眉を寄せながら花純たちに近付いた。
「久しぶり・・・、花純ちゃん」
軍服を着たままで外へと出たから、彼らには明が騎士であることが解かるはずだ。結構な威嚇になるだろうと思い、胸を張る。
(しかし、こいつらデカいな・・・)
忌々しそうに内心舌打ちをしていると、聞いたことのある声が耳に届いた。
「あ、明さん」
視線を向けると、そこにはにこやかに笑む直哉が立っていた。




