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花純は一向に減らないスープの深い皿を途方に暮れて見詰めていた。まるでそれは日本でいうところのサラダを入れるような大きさに深さだ。
自分を囲んでいる男の子たちは、まだ花純が十八歳だという事実に衝撃を覚えているようだ。だけどきちんと食事を終えている。
自分だけがまだ食べている環境に、もの凄く居心地が悪い。
「な、直哉君。残しても大丈夫かな?」
腹も八分目くらいにはなっているので、残しても平気だ。だが作ってくれた人のことを思うと、残すのに罪悪感が募る。
「花純さん、僕たちのこと気にしているの? ゆっくり食べていいんだよ? それとも本当にお腹一杯?」
優しい。直哉は本当に優しい。こんな弟が欲しかった。
花純はまた食べ始めた。
「お腹一杯なら無理して食べなくてもいい。残ったら俺が食べるから・・・」
そう言ってくれたカイトだったが、目の前の男の子たちの顔が驚愕したようなものになるのを花純は見てしまった。
「・・・・・・・・・?」
花純が首を捻ると、オレグが教えてくれる。
「カスミさん、俺こんなに女の子に話すカイトを見るのも初めてだけど・・・。こんなに構い倒すカイトも初めて見た」
「カイトは女に興味ないもんな・・・」
「あ・・・、男が好きって意味じゃないよ?」
「・・・・・・何でそこで疑問形なんだ」
最後のゴードンの言葉に、カイトは嫌そうに眉を歪めた。
「そう言えば、そうだよね。珍しいカイトを見られた」
楽しそうに微笑んで、直哉までがそう言葉を紡ぐ。
カイトがちょっと不貞腐れたような顔になって、花純は思わず笑ってしまった。彼らの仲が良いことがこれで解かる。好き勝手に言いたい放題だ。
しばらく食べ続けていたけど、もう・・・・・・無理。
「な、直哉君。残してもいい?」
再度の質問に、直哉もようやく頷いてくれた。
もう花純は涙目だ。
本当に皆、この世界の女の子はこんなもの凄い量を食べるのか? 疑問である。
カイトが無言で花純のお盆を引き寄せようと手を伸ばすと、前から伸びた手がそれを掴んだ。
「まあ、待てカイト。これは俺たちが食べる権利もある」
「そうだよね、カスミさんの残りものだもんね」
花純はその台詞を聞いて、首をこてりと捻る。
隣の直哉も何かに気付いたのか、名乗りを上げた。
「僕も、食べる」
そんなに欲しいのか?
この年頃の男の子って、食べても食べてもお腹が空くってよく聞くものね。と自分を納得させた花純だった。人の食べかけをも欲しがるくらいなのだから、まだ足りなかったのだろう。
「あ、俺も欲しい」
「俺もっ!」
皆が手を上げる中、何故か見えない火花が飛び散る。
もちろん花純はそんなこと全然気がついてはいないけど。
「じゃんけんだっ!」
直哉が以前教えた不公平のない健全な勝ちかけの勝負に、皆真剣な顔で立ち上がる。
「「「「「じゃんけん、ほいっ!」」」」」
勝ったのはカイトだった。勝ち誇ったような彼の顔に、皆が悔しそうにする。
カイトはゆっくりと座り、花純のお盆に手を伸ばす。
「いただきます」
「ど、どうぞ・・・」
そしてカイトは満面の笑みを浮かべながら、花純の残したパンとスープを食したのだった。
それからもう陽も暮れたので、それぞれの部屋へと戻ることにした。
直哉にお風呂とトイレの使い方を教わり、何度も念を押すように部屋の内鍵をかけろと諭されてようやく一人になれた。
今日はいろいろあった。
ちょっと名前を覚えるのが苦手な花純には、過酷な一日だった。
明日から学園に通うことになるが、しばらくは直哉と二人きりの授業だ。どんな授業が待ち構えているのか、楽しみだ。直哉が先生だと思うと、気が楽だし。
明日は七時に迎えに来てくれるらしいから、すぐにお風呂に入って花純は就寝した。




