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六人で和やかに夕食を食べていると、食堂の入り口付近から女の子たちの黄色い悲鳴が上がった。
「「「きゃあぁぁぁ~っ!」」」
何事かと、花純はそちらの方へと視線を投げかける。
背の高い男性たちが数名、食堂の扉を潜るところだった。
他の男の子たちとは違い、体格がいいように見える。
「騎士課の人たちですよ」
花純の視線に、直哉が応えてくれた。
(騎士課・・・・・・、未来の騎士様なのね)
騎士の学校へ通っているのだから、他の男の子たちと体格が違って当たり前だ。日々訓練で身体を鍛えているのだから。
やっぱり細マッチョは、何処の世界の女の子たちにも魅力的に見えるらしい。
彼らもまだ若いからか、身体が出来上がっていないようだ。これからどんどん成長していくのだろうなと、花純はスプーンを持ったままぼうっと見ていた。
その時ドンッ! と背中から衝撃が訪れた。
もう少しでスープのお皿に顔を突っ込むところだった。危なかった。
「お、すまん」
野太い声が背後から聞こえる。
「花純さん、大丈夫ですか?」
「髪にスープがついたな・・・」
そう言いながら自分のハンカチをポケットから取り出し、カイトが花純の髪を拭いてくれた。
「あ、ありがとう」
「・・・・・・・・・ん」
ガシャンと背後で何かを乱暴に置く音が聞こえて、大きな手で両頬を挟まれて上を強引に向かされた。
「・・・・・・・・・っ!」
「お・・・、可愛い。初めて見る顔だな。転入生か?」
最後の言葉は、直哉に聞いているようだった。
こんな中途半端な時期に寮へ入ってくるということは、転入生しかあり得ないと思ったのだろう。
「彼女は落ち人ですよ。花純・野々宮さんです」
直哉に名前を呼ばれると、何だかちゃんとした日本語に聞こえるから不思議だ。漢字の『花純』と呼ばれていると伝わる。
上から変な格好で覗かれて、ちょっと首が痛い。
「・・・・・・手を離して下さい。ベイツさん」
カイトが花純の肩を支えながら、低く威嚇した。
ちょっと怖い雰囲気になって、花純も緊張してしまう。
「ああ、悪い」
パッと離されて、首がコキコキとなった。
「ベイツさんの馬鹿力で抑えられたら、カスミさんじゃ敵わないよ。女の子なんだから、手加減してくれなくちゃ」
目の前に座るゴードンがそう言ってくれる。
「俺、落ち人は何人か見たけど・・・・・・こんなに小さくなかったぞ」
(小さい・・・。日本人だから? それとも私だからか?)
「歳、いくつ?」
背後の椅子を引き寄せながら、花純の側に座る。
「・・・・・・・・・十八歳です」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
何でここで皆黙り込むんだ?
「え? えぇ? カスミさん、十八歳っ?」
「俺・・・・・・ナオヤより年下だって思ってた」
「俺も・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
カイトに至っては声も出ないのか、瞳を見開いて花純をじっと見ていた。
「十八歳か・・・・・・。俺と同じ年だな」
ベイツがそう言いながらニコッと笑った。
「カスミ・・・だっけ? 俺と付き合わない?」
「・・・・・・・・・っ?」
どう反応していいのか解からない。
今はこの世界に慣れることを重点的にしたいのだけど・・・。
それにベイツは花純の好みではない。
はっきり断った方がいいのか? どうなのか?
そう言えば付き合うって、彼女になるってことで意味はあっているのだろうか?
ちらりと直哉に視線を向けて助けを請う。
「花純さんはまだこの世界に来たばかりなんですよ。常識から覚えて貰わなきゃならないんですから、しばらくは彼氏は作れません」
直哉の言葉で、やっぱり付き合うって彼氏になるって意味であっていたのだと理解した。
「お前が決めるのか?」
直哉の保護者的な言葉に、花純はほっと息を吐く。
でもベイツはそう受け取らなかったようだ。
「僕は国から花純さんの教育を任されましたからね」
「・・・・って、お前まだ十三歳だろう? 人に教えられる立場か?」
「もうすぐ十四歳ですよ・・・」
口を尖らせるところが、まだまだ子供っぽい。
「ナオヤは父親が落ち人なんですよ。それにカスミさんと同郷だって言うし、だからじゃないですかね?」
「ふ~ん・・・」
納得したのかしていないのか解からないが、ベイツの視線が花純から離れない。
「未練ありまくりじゃないですか・・・」
直哉の呆れた声に、ベイツも素直に頷く。
「騎士って職業はな、人気はあるが実際妻に、となると敬遠する女が多いんだよ。だから先輩たちが、学生の時からいいのには唾付けとけって・・・」
何の助言だよ・・・、と皆が白い目でベイツを見る。
「まあ、もう少し待つか。カスミ・・・俺のこと覚えておいてね」
ベイツは席に戻り食事を始めた。




