第一部 幸せな時間③-2
「そういえばさ、亜里沙とは一緒に帰ったことあるの?」
片手にたい焼きを持ってほおばりながら帰るには自転車を押さなければならない。二人は右手で自転車を押しながら左手にたい焼きを持ち、並んで歩いていた。
「んー…たまにかな。…基本時間会わないから」
隣で歩いている泰樹が抹茶クリームたい焼きを食べながらそう答える。
「そうなんだ…これ、亜里沙知ったら嫉妬したりして」
「んなわけないでしょ」
泰樹が即答する。何馬鹿なこと聞いてるんだ、と言いたそうな顔を私の方に向けていた。
だから私はにーっと満面の笑みを向けた。泰樹は由佳の顔を見るなり、ふと我に返ったかと思うと顔を赤くして私から目線をそらした。そういうところ、かわいいんだよなー。
「あ、そういえば、ひとつ泰樹に謝らないといけないことあるんだ…」
「ん?なに?」
泰樹がぽかんとした顔をする。
「実は、あの店、地元の友達から聞いてたから知ってた」
「…まあ、だろうと思ったよ。有名だし」
泰樹が少しがっかりとした表情をしたので、由佳は「まー気にすんなって!」と自転車を泰樹にちょっとだけぶつけると、泰樹は「別に気にしてないから」とプイと反対側を向いてしまった。
由佳は何故かその仕草が可笑しくなってくすくす笑ってしまった。
ふとしたことだけど、小さな幸せ。ずっと続けばいいのにな。




