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第一部 幸せな時間③-1

由佳と一緒に帰ること自体は別に約束しているわけではないが、泰樹が帰ろうとすると校門で偶然会う→一緒に帰ることが度々発生し、週に2回程度は一緒に帰っていた。

亜里沙以外の女の子とほとんど話したことのない泰樹は毎回何を話せばいいのか悩んでいたが、だいたいは由佳が「今日のお弁当まずかった」「数学全然わからない」「受験嫌だ」など日常の愚痴を吐き出してくれるお陰でこちらから話題を振らなくても場は事足りていた。これがいわゆる『他愛もない会話』というものなのだろうか。


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「あっ…そういえばさ」


「ん!?どうしたどうした!」


いつもの帰り道。普段は全く話題を振らない自分が突然話題を振ったせいか、由佳が驚いてこっちを向いた。


「えーっと、ここの道をちょっとそれたところに有名なたい焼き屋があるんだけど…」


ちょっと寄っていこうか?なんて聞きたかったけど、ただ一緒に帰ってるだけでそんな買い食いする仲までにはなってないなとふと思い、泰樹は言葉を止めた。

しかも、そのたい焼き屋はかなり有名で、すでに友達が大勢いる由佳は他の誰かと行っている可能性だってある。自分なんかがこんなことを振るのは間違いだ。


「おー!地元民おススメのたい焼き屋!行くしかないでしょ!」


由佳は目をキラキラさせながら首を縦に振っていた。泰樹の予想に反して、行ったことがないらしい。


「じゃあ、行きますか…」


改めて考えると、これは自分から誘った、ちょっとしたデートなのではないか。そう思うと泰樹は急に恥ずかしくなって言葉が出てこなくなり、さらにたい焼き屋に着くまで何も話せなくなった。


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「うーん…あんこにしようかクリームにしようか…うーん…」


由佳は小倉あんと書かれているケースと、クリームと書かれているケースを交互に見ながら悩んでいた。

普段は自分から何も話さないくせに、突然珍しく話題を振ってくれて、しかも買い食いのお誘いをしてくれるとか、少しは打ち解けてくれているようですごく嬉しかった。

やさしくていい人なくせに、学校では素顔をほとんど見せず静かにしている神秘的な存在。由佳は、何としてもそのいつも被っている仮面を攻略したいという気持ちになっていた。


ルンルンした気分でたい焼き屋まで来たは良いものの、二つの味でこれほど迷うとは思わなかった。早く決めないと泰樹を待たせてしまう。


「ねえ、どっちがいいと思う?」


先に抹茶クリームのたい焼きを買った泰樹に聞いてみる。


「俺は抹茶がおススメだけどね」


「私、抹茶無理なんだってば―」


泰樹は「うーん」と考えると、左側にある『小倉あん』のケースを指さした。


「じゃあ、あんこかな」


「おーけー、おばちゃん、クリーム一つ!」


「あのなぁ…」


泰樹が呆れた顔をしている。一本取ったり!由佳は、してやったりといった顔を泰樹に向けた。泰樹を少し攻略できた気分だ。


「由佳も、そういうことやるんだな」


「ん?誰かに同じことされたの?」


「ああ、だいぶ前だけど、知り合いにね」


一瞬、女か?と思って何故か少し心が痛くなったが、亜里沙が「あいつは女恐怖症なんじゃないかって思うくらい女子と話さない」と言っていたくらいだからそれはないだろう。

そう思うと、自然と胸の痛みが取れた。


「ふーん、そうなんだ。一番じゃなくて残念」


「何でも欲張るのは良くないと思うぞ」


「あれ、今日よく喋るねぇ」


泰樹が「なっ…」と顔を赤くしたところへ、たい焼き屋のおばちゃんが「はい!クリーム一つ120円!」と言って出来立てのたい焼きを差し出してきた。


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