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第一部 幸せな時間②

「なにそれっ。めっちゃ面白いね」


由佳とお互い自転車に乗りながら一緒に帰る途中、今日のあれからの出来事を話すと由佳は3回くらいよじれたんじゃないかと思うくらい大爆笑した。


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これまで目立ってなかったやつが超人気の女の子と急に仲良く話している(しかも連絡先交換もした)というのだから、ある程度の悪口や陰口を叩かれることは覚悟していた。


そして昼休み、由佳に取り巻いていた男子に取り囲まれた。直接罵倒されるのかと思いきや、予想外に「なぜ仲良くなったのか」と質問された。正直に言うと何か言われると思い、「家が近いから」とだけ答えると、その答えだけでなぜか集団は納得し、そこからは連絡先を横流ししてくれとせがまれた。そんなことはできないと言うと、『お願い』から段々と『怒り』に代わり、「おまえだけ独り占めずるいぞ」「調子のるな」「後悔させてやる」といった具合に、中には罵声を浴びせるものまで現れた。俺に教える権限はないから直接夏目さんに聞いてくれと精一杯言い逃れしていると昼休みが終わってしまった。弁当を食べ損ねてしまった。


なんとか部活前には栄養をつけようと、授業終わりから掃除が始まるまでの間に弁当を食べようとしたとき、今度はクラスの女子に囲まれてしまった。こちらはかなりの質問攻めだったが、主に付き合っているか否かの確認がメインだったので「なにもない」「付き合ってない」というだけだったのでこちらは対処しやすかった。が、昼休み同様弁当を食べ損ねた。


部活直前に少しは食べたが、そんな量でエネルギーを補給できるわけがなく、部活が終わるとすぐに部室に戻り、お腹と背中がくっつきそうな体を無理やり動かして身支度をし、帰路についた。校門を出ると、校門の前で由佳が自転車に座りながら携帯をいじっていた。

こちらに気づくなり「おー!ヤスキ君!偶然だねえ!一緒に帰るか!」なんて言ってくるものだから、断る理由のない泰樹は由佳と帰ることにした。そして、今日の昼休みと掃除前の話をしていた。


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「あれ、そういえば亜里沙は?」


帰り道が同じはず…というか全く同じの亜里沙の姿が見当たらない。由佳と一緒の陸上部と聞いていたのだが。


「誘ったんだけどね、亜里沙は『自主練してから帰るー』なんていうもんだからさ、先帰ってきちゃった」


泰樹の方を向き、自転車から片手を離して『てへぺろ』ポーズをするものだから、泰樹は「また転ぶぞ」と忠告してやった。すると由佳は「おっとこれは失礼」と白い髭なんて生えていないのに長老みたいに髭を触るしぐさをしながら偉そうに言った。


「そうそう、連絡先交換して思ったけど、ヤスキ君って安泰の『泰』に樹木の『樹』って書くんだね。」


「そうそう。たまにタイキとか言われることあるけどな」


「そうなんだ…私も間違えて呼んじゃうかも」


「そんな間違える宣言されるの初めてだわ…」


由佳の方を見ると、いじわるそうな顔でこちらを見ていた。接してまだ2日だが、由佳は典型的な『おてんば娘』のような感じだった。表情が豊かだし、何より裏表がなさそうなのがとても好印象だった。


「まあ、タイキは優しそうだし、間違えても怒らなさそう!」


「あのなぁ、言った傍から間違えるのはどうなんだ…」


なぜか可笑しくなって、クスクスと泰樹と由佳は笑った。こんな楽しい時間がずっと続けばいいのに、と泰樹は心の中で思った。

自分にとってかなりの贅沢かもしれないけど、ちょっとだけ、帰り道だけ、贅沢ぐらい、いいよな…。


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