最終部 本当は…
「由佳はどこ受けるの?」
隣を歩いている亜里沙が雪玉を作りながら聞いてきた。
今年最後の下校。今日は予備校が休みのため、家に直帰するつもりだった。
本当は泰樹と帰りたかったのだが、放課後にサッカー部の受験激励会があるらしく、同じくサッカー部の彼氏―戸田―を持つ亜里沙と先に帰ることにした。
「私は…」
由佳は第一志望として考えている大学名を言う。
「え、そこって泰樹と同じじゃん!ラブラブだなぁ!ひゅーひゅー!」
亜里沙が、作っていた雪玉を至近距離でぶつけてきた。まあまあ時間をかけて作成していた雪玉だったせいか、若干痛かった。
「でもさ」
亜里沙が先ほどまでしていたニヤニヤ顔を変え、真剣な表情で由佳を見てくる。
「本当に、そこでいいの?」
「え?なんで?」
亜里沙は何でそんなこと聞いてくるのか。由佳には分からなかった。
でも、どこか、自分の心の中で引っかかっているところがあったのかもしれない。
その引っかかっているところを突かれたような気がして、ドキッとした自分もいた。
「由佳、そこでやりたいことあるの?」
「んー、まあ、やりたいこと自体がないからなぁ」
由佳がそう答えると、亜里沙は由佳の腕に向かって軽くパンチしてきた。
「嘘つき。昔、岩手遠征のときに将来やりたいことあるって言ってたじゃん!」
「まあ、そうだけどあれは昔のことで…」
由佳は苦笑いする。もう2年も前のことだ。2年も時間が経てば、心境とかいろいろなことが変わってしまう…もちろん、やりたいことも。…たぶん。
「あのね、由佳」
「ん?どした?」
亜里沙が立ち止まったため、由佳も立ち止まり、亜里沙の方を見る。亜里沙の目は、いつになく真剣な目をしていた。
「おせっかいなのはわかってる。でも、なんか言わないと私自身が後悔しそうで。最初に謝っておく。ごめんね」
「いやいや全然!むしろ私のことすごく考えてくれててありがたいなって思ってるよ」
これは本当のことで、亜里沙のような素晴らしい友達を持って本当に良かったと思っていた。感謝しきれなくらい。
「じゃあ、言うね。由佳さ、正直、夏の学力ならその大学も厳しかっただろうけど、今は十分余力があるくらいの学力があると思う」
そう。ここ最近、一生懸命勉強して夏の遅れを取り戻していたからか、成績は前の学校の成績並みに回復していた。それどころか今は上り調子で、今目指している大学であれば余裕で合格できるくらいまでになっていた。
「だからさ、2年前言ってた、目標の大学に挑戦してもいいんじゃないかな」
「えっ…」
そんなこと、考えたこと無かった…と言えばウソになる。
正直、その可能性も捨てずに努力は継続していた。日本で二番目の国立大学。なかなか簡単に入れるものではないことも重々承知している。だけど、そうすると…
「泰樹のこと、気になってるの?」
「そんなことないけど…」
違う。本当は気にしている自分がいる。痛いところを突かれたかもしれない。これ以上、言葉が出てこない。
「あのね、由佳。今は、目標に向かって突き進むときなんじゃないかな。泰樹と由佳は、いろんな山谷を乗り越えて、すごく強い力で結ばれてると思うし、そんな遠距離なんてへっちゃらだよ」
亜里沙の言っていることはごもっともである。しかし、遠距離になることが寂しくて、寂しくて、しょうがなかくて、現実を見ることができない自分がいた。
泰樹が目指している大学は宮城にある。
そして、2年前、私が目指していたところは京都にある。
宮城と京都の遠距離。できないことは無いかもしれないけど、辛い。絶対、辛い。
「まあ、ここまで言っておいてあれだけど、まずはセンター試験。その結果次第で全く違う状況になるかもしれないし。とりあえず、足元救われないようにお互い頑張ろうか」
亜里沙は由佳に微笑むと、再び歩き出した。由佳も亜里沙の横に並んで歩き出す。
「あの、さ」
「んー?」
遠くを見るように目を細め、前を見ていた亜里沙が由佳の方を向く。
「泰樹から聞いたんだけど、戸田って福岡なんだよね?」
「そうだよ」
「東京と福岡の遠距離、辛くない?」
「ぜーんぜん!だってお互い信じてるもん!」
亜里沙は笑いながら言っていたが、その言葉にはどこか絶対的な自信があることを由佳は感じ取っていた。亜里沙は強い、その強さ、少し分けてほしい。
私も、将来についてよく考えてみよう。
亜里沙の真似をして雪玉を作りながら、由佳はそう、決心した。




