最終部 前触れのない波乱④
「久しぶりだね、元気?」
「お陰様でね」
由佳は皮肉をたっぷり込めて伝える。お前の顔なんて二度と見たくなかったのに。お前のせいでまた会う羽目になってしまったじゃないか。
「とうとう君から俺を呼ぶなんて。俺と付き合う気になった?」
「まさか」
由佳は不敵な笑みを浮かべた。ふふふ、過去最大の仕返しをしてあげる。
「今日はあんたのプライドをぶち壊しに来た」
「ほう。どういうことかな?」
「まあ、見てれば分かるって」
そう言うと、由佳は柱の陰の方を向く
「亜里沙!」
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「亜里沙!」
「!?」
由佳が亜里沙の名前を呼んだ瞬間、泰樹は亜里沙に廊下のど真ん中に突き出された。大久保のみならず、噂を聞きつけて集まっていた隠れギャラリーの視線を一斉に集める。えっと、これは…。
「紹介するね」
由佳がこちらに近づいてくる。まさか…そのまさか…。いやこんな大勢の前で…。
由佳は泰樹の横にくると、泰樹の腕にしがみついた。
「私の彼氏」
大久保が分かりやすく顔が引きつらせる。
「私の彼氏の、変なデマ流すとかやめてよね。この最低野郎!」
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「あいつ、最初信じてたよな」
前に座っている戸田がひそひそと笑いをこらえながら話をしてきた。
「お前ら、いつからあんな作戦立ててたんだ?」
「あの作戦自体は即興」
あの後、由佳から作戦の話を聞いた。由佳によれば、亜里沙と戸田から持ち掛けられたらしい。作戦というのは、あの実際に起こった『シナリオ』通りにして、大久保をぎゃふんと言わせてやろうというものだった。作戦は大成功に終わり、3人とも大満足に終わった…らしい。
「でも戸田いなかったじゃん」
「まじで急用入っちゃってな。まあ俺いなくても支障ない作戦だったから」
「あっそう…」
その作戦、俺にも教えてくれてもよかったのに…。
「まあ、とにかく噂が晴れてよかった」
泰樹はとりあえず安堵していた。
が、あのあとは本当に大変だった。瞬く間にクラスの注目の的になり、春の時と同様に男女共々から質問攻めに遭った。変な噂を信じていた人が大多数だろうと心配していたが、話を聞く限りでは二人の予備校帰りを目撃している人もおり、実はあの二人は付き合っているのではないかという噂もどうやら立っていたらしい。変な噂の方を信じていなかった人も一定数いたようだ。
まあ、付き合っていることはバレてしまったが、とりあえず変な疑いが晴れてよかった…。
「そういえば、泰樹はどこ受けんの?」
この時期での『受ける』という言葉は、恐らく受験のことだろう。
「変わらずだよ。戸田は?」
「俺は…」
戸田は九州にある大学名を答えた。
「ずいぶん遠いな…」
「まあ、俺のレベルだとここが一番かなと」
「亜里沙は東京だろ?いいのか?」
亜里沙は前から東京にある日本一の大学を目指すと言っていた。まあ、成績では申し分ないし、恐らく余裕で合格するだろう。
「別に。大学は勉強するところだしな」
「お前の口からそんな真面目な言葉が出てくるとは。少しは成長したんだな」
「まあな。それに…」
戸田が一呼吸置く。
「離れても、好きな気持ちは変わらないからな」
「なんだよ、惚気かよ」
戸田の肩を軽く押す。戸田が珍しく顔を赤くしていた。
まるで、この前の自分を見ているかのようだった。




