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最終部 前触れのない波乱③


「いい加減、由佳に付きまとうのやめた方いいよ?」


由佳と噂の話をした翌日。席で次の授業の準備をしているとき、佳代が急に泰樹のところへ近寄ってきた。


「あのさ、あれは違うん」


「正直、大久保君には叶わないんだから諦めなって。由佳のこと好きなのはわかるけどさ」


佳代が泰樹の言葉を遮って捲し立ててきた。何故か自分のこと否定されているようで腹が立ったが、泰樹はぐっと堪えた。別にここで対抗して言う必要はないし、ここで言い合っても何も生まれない。


「まだあんな根も葉もないうわさ信じてるのか?」


前の席に座っている戸田が呆れたと言わんばかりに両手を肩の高さまで挙げる。


「大久保、由佳に二回振られてるんだぜ?」


「だって、由佳が今日の放課後ここのクラスに来るようにって大久保君に言ったらしいよ?クリスマス前だし、告白するのかな?」


泰樹はビックリした。まず、由佳が大久保のことを呼んだ話。今日は授業が午前中のみで、午後には一斉下校となる。ものすごく嫌な予感しかしない。あとで由佳に確認しないと…。


それともう一点。どうして戸田が、大久保が二回も振られていることを知っているのだろうか…?由佳が渡り廊下での話を戸田にしたのだろうか。


「あー、俺のことなら亜里沙情報な」


戸田が泰樹の心を読んだかのように補足してくる。本当に戸田は亜里沙と付き合ってるんだなと泰樹は思った。


「まあ、今日の放課後はいいもの見れるぜ?」


「美男美女カップルの誕生?」


「佳代って本当に馬鹿だよなぁ」


「戸田に言われたくないわ」


戸田と佳代が無意味な応酬を繰り広げている。それを見ながら泰樹は「面倒なことになった…」と大きくため息をついた。


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結局、由佳に聞くタイミングを逃してしまい、問題の放課後になってしまった。


「逃げたらだめだよ?」


亜里沙が泰樹の手を後ろで拘束している。泰樹と亜里沙は廊下の柱の陰に隠れながら由佳を見守っていた。


「お願いだから逃げさせて…」


「ダメ。この作戦には泰樹が必要だから」


「作戦?」


「いいから黙って見てればいいの!」


亜里沙に手首を捻られる。思わず泰樹は「痛い痛い痛い!」と声を漏らしてしまう。


「ところで、亜里沙は戸田と付き合ってるの?」


「そうだよ」


「なんで言ってくれなかったんだよ…」


「幼馴染なら分かってくれてるもんだと思ってた」


「以心伝心ってか…」


泰樹は呆れた。いくら幼馴染でもそんなのできるわけない…。


「そういえば戸田は?」


「用事で先に帰った」


泰樹はため息をついた。なんでこういう時にいないんだ。最近、ため息をつく回数が多くなっているような気がする…。


「戸田と付き合ってるのに、俺とこんなに距離近くていいのか?」


亜里沙は手を拘束している上に、泰樹に体をぴったりくっつけている。亜里沙もそうだが、俺の立場としても誰かに見られたら危ういところではある。


「大丈夫。戸田と由佳には許可とってある」


「許可って何」


「あ、来た来た!」


泰樹の言葉を遮るように亜里沙が肩をバシバシと叩いてきた。

由佳の前に大久保が現れたのだ。大久保はどこか余裕そうな表情をしている。全く、あいつのせいでこんなことになっているのに…イライラする。


「由佳、どうするつもりなんだ…」


泰樹は心配だった。もし、噂(の後半部分)が本当で告白するのだったら…。

いやいや、それは邪推だ。とにかく、今は由佳を見守るしかない。


「まあまあ、落ち着きなって。いいもの見れるから」


亜里沙が不敵な笑みを浮かべている。泰樹は嫌な予感がした。


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