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第二部 すぐ目の前に①


晩御飯時にもかかわらず、ショッピングモールは多くの人でにぎわっている。人の流れに逆らうように、泰樹はショッピングモールの出口へと向かっていた。


見た映画は洋画でアクション系。デートなら恋愛系かな…と泰樹は思い予め調べていたのだが、亜里沙が「あんな非現実的なものやだ」といってアクション系の映画になった(アクション系の映画も十分非現実的だと思うのだが…)。


ショッピングモールで映画を見たあと、亜里沙の買い物に付き合う予定だったのだが、亜里沙が急遽親戚の家に行くことになったらしく、ショッピングモールで別れた。亜里沙の方は、いとこが車で迎えに来るらしい。待ち合わせをした時の表情とは違って、深刻そうな顔をしていたので泰樹はあえて追求しなかった。


そんな経緯があり、泰樹は一人ショッピングモールから駅へと向かっていた。ショッピングモールの最寄り駅から家の最寄駅までは3駅。ちょっと遠いが、そこまで出ないと遊ぶ場所がなく、さらに予備校などもここへ集中しているため、この近辺にはよく来ている。ショッピングモールから駅まで徒歩10分。泰樹はショッピングモールの出口へ向かいながら、イヤホンを装着した。

向かう途中、薄皮たい焼きを持った中学生と思われる男子が泰樹を追い越していった。それを見て泰樹は『いいなぁ俺も食べたい』と心の中で思った。


出口からショッピングモールの外へ出る。駅までバスも一応出てはいるのだが、信号や今の混雑状況から逆にバスの方が時間がかかる可能性がある。泰樹は音楽を聴きながらのんびり帰ることにした。音量を少し上げる。


「…き!」


ふと、後ろから誰かに呼ばれたような気がした。しかし、この時間帯は人通りも多いため自分じゃないと思い、泰樹はそのまま歩みを進める。


「…すき!」


2回目。さすがに自分なのではないかと思い、イヤホンを外して振り返ろうとする。


「泰樹!」


3回目。振り向く前に聞こえた。明らかに、自分を呼ぶ声だった。しかも、よく聞いたことのある声。振り向くと、そこにはあの子―由佳―がいた。


「由…!?」


しかも、すぐ目の前に。


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由佳は使いすぎてぼーっとする頭を何とか作動させ、カフェを後にした。


あの後、起こった出来事を整理するために1時間弱もカフェに滞在してしまった。亜里沙が泰樹のことを本当は好きだということ、戸田が私に好意を持ってくれていること。こんなシンプルなことなのに、なかなか纏まらなかった。


そうだよね、よくよく考えてみたら幼馴染の感情以外であそこまでスキンシップを取るはずがない。自分の幼馴染との関係と比較すると、相対評価ではあるがなおさらそう思う。何で今まで気づかなかったんだ、自分。


一方の戸田については、正直びっくりした。今までそんな感じもしなかったし、まさか私に好意を持っているなんて思ってもいなかった。まあでも、相談したいことがあると言ってくる時点で私は勘づくべきだったのかもしれない。でも、そこで気づくのはやっぱり難しいかな…もっと他に前兆でもあったのだろうか。

戸田については、いい人だと思っている。たまに癪に障るところもあるが、元気づけてくれたり、サポートしてくれたり、いろいろ。でも、戸田の相談に対する答えは決まっていた。あのとき、無理やりにでも言えばよかったかな。


駅からカフェまで来た道を戻っていると、ショッピングモールから薄皮たい焼きを持った中学生っぽい男子が出てきた。さっきは欲しいと思ったが、今は気分的にいらないかな。直帰しよう。由佳はそう思い、駅方面に向かおとしたとき、


え?


薄皮たい焼きを持った中学生の後ろから、見覚えのある人が出てきた。よく見たことのある顔。予備校帰りなのだろうか、重そうなリュックサックを背負っている。参考書でも入っているのだろうか。


あまりにも突然な出会いに、由佳は戸惑った。


だけど、今を逃したら、たぶんもう話せる機会はないかもしれない。神様が与えてくれた、唯一無二のチャンス…までは言い過ぎかもしれないが、心のどこかで焦りがあった。

由佳は勇気を振り絞って、泰樹の後ろに回る。


「泰樹!」


呼んでみたが、返事がない。別人なのだろうか。それとも、人通りや交通量が多いせいか、聞こえていないのだろうか。それとも、無視されて…いやいや、そんなこと、あるわけない。もう一度、呼んでみよう。


「泰樹!」


2回目に呼んで初めて、泰樹がイヤホンで音楽を聴いていることに気づいた。これは呼んだだけじゃダメだ。ちょっと緊張がほぐれる。無視されているわけじゃなさそうだ。

なんだよもう、私がせっかく勇気を振り絞って呼んでいるというのに。両肩を手で叩いてやろう。由佳は泰樹に近づいて、後ろから両肩をたたく体勢をとる。


「泰樹!」


3回目。由佳は泰樹の両肩を叩こうとした…が、


叩こうとした瞬間に泰樹が振り返る。


「由…!」


泰樹はすぐ目の前に私がいたことにびっくりしていた。

当然、私も振り向くなんて思っていなかったからびっくりした。



肩を叩こうと前傾姿勢になっていた由佳は、そのまま泰樹に抱きついてしまった。


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