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第二部 女子力か、女々しさか①


寒い。

由佳は緩んでいた赤色のマフラーをしっかりと巻き直した。


10月後半。そろそろ冬の訪れを感じ始めてくる時期で、時折吹く冷たい風が露出させている皮膚という皮膚に突き刺さってくる。

駅のすぐ近くにあるショッピングモールに出入りする人々を見ると、土曜の夕方だからなのか、いつもより親子連れが多いような気がする。たまに中学生と思われる男の子が薄皮たい焼きを頬張りながら出てくるのを見ると、その都度『いいなぁ私も食べたい…』と由佳は思った。


由佳は戸田が来るのを待っていた。別に会いたくて会うわけじゃない。仕方がなく会うのである。そもそもどうしてこういう経緯になってしまったのか…まあ、いろいろあったが、案外戸田が強気だったということも要因の一つである。


由佳は夏の一件で背負ってしまっていた勉強の『借金』を取り戻すべく、学校祭が終わってから猛勉強していた。亜里沙とも戸田ともあまり話していないし、もちろん、泰樹とも話していない。なんとか話すきっかけをつかみたかったが、メッセージを送る余裕すらなく、気がづけばやり取りしないで一か月弱が経ってしまった。今、泰樹は何をしているのだろうか。


「おまたせ、ごめんごめん」


由佳が思いに耽っていると、戸田が駅へと続く道から走ってきた。全く、こっちが時間指定したとはいえ女の子を待たせるとか考えられない。


「本当に予備校帰りだったんだな、ごめんな」


「本当は余計だわ!」


由佳はより感情を込めて戸田を責めた。せっかく予備校の帰りにわざわざ時間を作ってやったのに…図書館で勉強している分、融通が利く戸田が遅れてくるなんて考えられない。しかも『予備校帰り』を疑うとか論外だ。


「今日はお面、被ってないね」


「誰かが怒らせたからね」


「ごめんって!…まあ、このまま立ってても寒いしカフェ入ろうぜ。そこでいい?」


戸田がショッピングモール内にあるシアトル発の大手チェーンであるカフェの看板を指さす。


そう、今日は戸田とカフェでお茶でもしようということになっていた。学校祭では遊ぼうと言われていたが、さすがに何も思っていない相手と遊ぶのは気が引けるし、受験も近いということで後日、折衷案でカフェを提案していた。最初は拒否される思っていたが、案外素直に了承された。意外だったが、こちらとしても都合がいいので良しとしよう。


「いいよ」


「んじゃ行こうか」


そう言うと、戸田はすたすたと歩いて先に行ってしまった。本当に、泰樹とは全然違うんだなと由佳は思った。


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「女々しいそれ…」


戸田が注文した飲み物をみて、由佳は呆れた。戸田が注文したのは『抹茶ティーラテ ノンシロップエクストラパウダーオールミルク』。女々しすぎる。由佳は思った。


「なんだよ、言い方に棘があるなぁ。亜里沙は女子力高いって言ってくれたぞ?」


「あれ、亜里沙ときたことあるの?」


「ごめん今の失言。忘れて」


「やだ忘れない」


「俺は忘れたから今の会話無し」


「で、亜里沙と二人で来たの?」


「由佳が飲んでるの新作?おいしそう!」


「ちょっと、話逸らさないで!」


「今日も寒いねぇ。夕方だから?」


「…亜里沙に告げ口するよ?」


「別に言ってもいいよ?」


「ぐぬぬ…」


由佳は完敗した気分になった。こいつ、なかなかやるな…。


「で、相談って何なの?」


由佳は亜里沙についての追及を諦め、本題に戻ることにした。

そう、元々会うことになったのは、学校祭の時のお返しに戸田の相談に乗るためだった。さっさと終わらせて早く帰ろう。


「まあまあ、落ち着けって。ゆっくりしようじゃないか」


戸田がのんびりと抹茶ティーラテを啜る。


「いや、勉強もあるしなるべく早く帰りたいの。分かる?」


もっともらしい言い訳を言って戸田を説得する。こうでもしないと聞いてくれないと思ったから。


「もっともらしい言い訳じゃん。まあいいけどさ…」


また心を読まれたと由佳は心の中で悔しく思った。まあ、普通の人なら察しても言葉に出さないと思うが。

一方で戸田はそんなことを思っている由佳を少しも気にせず、持っていたカップをテーブルに置くと膝に肘を置いて前かがみになりながら両手を組み、話す体勢になった。


「まあ、相談っていうのが、恋愛系なんだけどさ」


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