第二部 体育館裏②
「で、そのあとは?」
由佳が話すのを止めると、黙って聞いていた戸田が続きをせかしてきた。
「…続きは話してくれなかった」
何か隠しているわけでもなく、本当にこれ以上話してくれなかった。あの後、早智子は再び学校祭を回ることなく、そのまま帰ってしまった。
私だって、そのあとのこと聞きたかったし、知りたかった。でも、もう知るチャンスは早々ないかもしれない。
「そっか…まあ、むずかしいな」
戸田が地面を睨みながら呟く。
「聞いてくれて、ありがとね」
由佳は座ったまま、戸田に向かってぺこりと頭を下げた。相談といいつつ、ただ事実をつらつらと伝えただけになった上にあまり中身のない内容になってしまった。時間を取らせて申し訳ない。
「そんなことねえって。話せば気分転換になるから」
戸田が「なっ?」とこちらを向いて笑顔を作った。その笑顔は、私が作ってきた笑顔よりも、何十倍も、何百倍も柔らかくて、いい笑顔だった。私も、自然とこういう笑顔ができるようになれたらいいな。なぜか今、無性に泰樹に会いたくなった。
「ありがとね」
由佳は立ち上がると、数歩前に出て大きく背伸びをした。泣きそうになっている顔を見られないように。
落ち着け―私。私、落ち着け。…よし。
「じゃあお礼に、戸田の悩みも聞いてあげようではないか」
涙が出ないように気持ちを切り替えた由佳は戸田の方を振り向くと、偉そうに腕を組みながら戸田に提案した。
「ええ、急になんだよ…」
「悩み、無いの?幸せ者め!」
戸田の横に座りなおすと、戸田の脇腹を肘で小突いてやった。戸田は脇腹が弱いのか、「ひゃっ」と変な声を発した。
「あるって、あるからやめろって!」
「じゃあ聞かせてよー」
「ええ…」
戸田は由佳から目をそらすと、困った顔をしながらうーんと考え始めた。
「嫌なら話さなくていいけど」
「そういうわけじゃないんだが…」
戸田はしばらく考え込んでいたが、急に何かひらめいたかのか、突然、不自然なくらい爽やかにニコニコして由佳を見てきた。
「ここで話すとさ、誰かに聞かれるかもしれないじゃん?ほら、いつかの誰かさんみたいに」
「…誰かさんって私?」
由佳は戸田を睨んだが、戸田は爽やかにニコニコしたままで全く効いていない。
「だからさ、今度遊びに行こうや」
「へっ?」
あまりに突然の提案に今度は由佳が変な声を出してしまった。今、何て?
「二人で、遊びに行こ。その時、話すからさ」
「みんなとじゃなくて?」
「うん、二人で」
戸田は依然ニコニコしている。何故二人…?かといって別に断る理由はないのだが…泰樹には知られたくない。そこだけが、唯一の懸念。
「泰樹には言わないよ?」
まるで心を読んでいたのかのように戸田がフォローを入れてくる。
「まあ…それなら…」
「やっぱり、そうなんだね」
戸田が不自然なニコニコ笑顔を崩して「はぁ」とため息をついた。私、何かした?
「由佳の真似、してみた」
「え?私の?」
「これも俺の悩みの一つだなぁ」
「ん?何が?」
「何でもない」
全くかみ合っていないやり取りになってしまい、由佳はこれ以上会話を続けることができなかった。戸田が何を言っているのか、全く分からない…。
一方で戸田は目を細め、上を向いて空を見つめている。何かいろいろと考えているようだった。
「まあ、行けばわかるさ」




