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第二章 暗黒


「久しぶりだね」


早智子がこちらに向かって手を振ってくる。


泰樹はこの状況をまだ信じることができずにいた。どうして県外へ行った早智子がここにいるのか。色々あった早智子にとっては、ここには戻りたくないはずだろうに。


「なんでここにいるの?って顔してるね。もー、わからずやだなぁ。元カレなら以心伝心するかなって思ってたのに」


 早智子がにんまり笑顔を見せるが、目が笑っていない。泰樹はゾクッとした。一体何が言いたいんだ…。


「この学校にね、転校しちゃった友達がいるの」


友達。

泰樹が在学している2年半、泰樹の学年で転校してきた生徒は非常に少ない。

もしかして…まさか…。


「早智子おまたせー!…って泰樹?」


泰樹が早智子の言葉を聞いて固まっているところに由佳が戻ってきた。


「え、泰樹と早智子って知り合いなの…?」


由佳は、泰樹がどうして早智子と喋っているのか、分かっていないようだった。由佳は非常に分かりやすく困惑していた。

当の早智子は「あー、言わなきゃいけない時が来たか」と一人で何やら呟いている。

あれ?もしかして由佳は早智子の地元がここだって…


「実は私、中学校の頃までこの辺りに住んでいたの。」


「えっ…」


由佳は信じられないといった顔をして、そのまま固まってしまった。


「お前、ここから来たって喋ってなかったのか?」


「だってそれ言ったらハブられて引っ越したって思われるじゃーんそんなの嫌」


早智子の言葉を由佳はまだ呑み込めていないらしい。口をパクパクさせている。


「やすぽんと付き合ってたことも…」


「おい!やめろって!」


「たい焼きも食べたよねぇ…」


「だから!やめろ!」


泰樹は必死に止めようとするが、早智子はそれを無視して、昔を懐かしみながらに次々と話す。

今、由佳に早智子と付き合っていたことは知られたくなかった。


「…泰樹、早智子と、付き合ってたの?たい焼きって…あそこの?」


由佳が一つ一つ言葉を選びながら、泰樹に尋ねる。


「いや、うん、まあ…」


「なんだ、由佳とも行ったの?」


早智子がニヤニヤしながら泰樹の脇腹をつつく。泰樹は焦りを抑えるのに精いっぱいで、早智子に言い返すことができなかった。


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『ねえ、どっちがいいと思う?』


先に抹茶クリームのたい焼きを買った泰樹に聞いてみる。


『俺は抹茶がおススメだけどね』


『えー、抹茶無理なんだってば―』


泰樹は「うーん」と考えると、左側にある『小倉あん』のケースを指さした。


『じゃあ、あんこかな』


『おばちゃん、ピーナッツ一つ!』


『あのなぁ…』


泰樹はへへと照れ笑いする早智子の頭をポンポンと撫でた。


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「気を付けなよー?やすぽんは危険な男だから」


「何でだよ…」


早智子の言葉に泰樹は呆れた。こいつ…。


「あのとき言ってた…知り合いって…早智子…だったんだ…」


由佳がとても悲しそうな顔をしてこちらを見てくる。そんな顔、しないでくれ…。


ああ、なんで、なんでこんな時にお前が現れるんだ。何でこうなるんだ。由佳と付き合えそうだったのに、また壁ができてしまうじゃないか。

せっかく乗り越えた壁。次は高すぎて乗り越えられないかもしれない。


当時から、早智子には謝りたいこと、不満なこと、いろいろと、言いたかったのに。一方的にいなくなって、一方的に現れて、一方的にペラペラ喋って。自分勝手すぎる。ふざけるな。


「ああ!もう!」


泰樹は壁をドンと叩く。由佳はビクッと体を震わせた。早智子もびっくりして顔をひきつらせている。


「ごめんって。今日はやすぽんに謝りに来…」


「黙れ!」


早智子が慌てて取り繕おうとしたが、泰樹はそれを遮った。


泰樹は、自分がこれほどまでに怒っていることに対してびっくりしていた。


こんなに感情を抑えられないのは初めてかもしれない。


早智子に言い返してやりたい。あの言葉。




「おまえ…いや、君に会わなければ、こんなことにならなかったのに」


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