第二部 文化祭④
とても、嫌な夢を見ていたような気がする。
あの渡り廊下であいつ(大久保)と会うなんて思っていなかったし、あんなこと聞かれるなんて寒気がする。おそらくあいつは私のことを尾行していたのだろう。ストーカー気質なのだろうか。そう思うと、由佳は怖くなってゾッと身震いした。
とにかく、もうすぐ友達が来る頃である。大久保との一件があったせいで約束の時間をすっかり忘れるところだった。駅からここまでの道で迷子になっているかもしれないと思い、一応友達にメッセージを送ろうと由佳は携帯を取り出した。
『今どこら辺?迎えに行こうか?』
学校から出れるかは分からないが、もし迷子になっていたら迎えに行く必要がある。事情を話したところで先生が許可してくれるとは到底思えないが…そうなったらどこかのフェンスをよじ登って脱出するしかない。そのために一応ジャージは持ってきてある。なんか、脱獄みたいだな。由佳はちょっとだけ冒険心をくすぐられた。
そうこう思っていると、右手に持っていた携帯が振動した。返事がきたようだ。
『ううん、大丈夫!もう少しで着く!』
もう少しで着くならよかった、でも脱獄もどきをする必要がなくなったのはちょっと残念だな、と由佳は思いながら校門の方へと歩みを急いだ。
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由佳は内履きのまま玄関から外へ出た。普段この時期はあまり寒いと思ったことはないのだが、ここの土地が寒いのか、それとも今日だけ特別なのか、時折吹く秋風がとても冷たく感じられた。
校門には生徒指導の先生二人が校門に立っていた。怪しい人を入れさせないことが目的ではあると思うのだが、ここで由佳が学校外に出て行ったら確実にこの二人に捕まり、反省文を書かないといけなくなるオチは目に見えている。やっぱり迷わず来てくれて助かった。由佳は心の中でホッと胸を撫でおろした。
「ゆかぽんー!」
校門の外から、私が前の学校で呼ばれていたあだ名を呼ぶ声が聞こえた。
背が私と同じくらいで小顔でボブカットの女の子がこちらへ向かってくる。
待ち望んでいた、あの子だった。
「久しぶり!早智子―!」
前の学校にいる大親友―草野早智子―がはるばる文化祭に来てくれた。
由佳は久々に会えたのが嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。
「久しぶり!ゆかぽん、痩せた?」
早智子がニコニコしながら脇腹を触ってくる。由佳は思わずビクッと反応してしまい体を弓のようにそらしてしまった。
「ちょっと、わたし脇腹弱いことわかってるでしょ?」
「ゆかぽん、何も変わってないねぇ」
早智子は懐かしむように由佳の頬を両手で撫でた。全く、弱点なんてそんなすぐ変わるわけないっての。
「ねーゆかぽん早く中入ろー、マフラー忘れてきれ寒いんだよー」
早智子が由佳の手を引っ張る。
「わかったわかった、じゃあ、案内してあげよう」
由佳はエッヘンっと言わんばかりに胸を張る。それを見た早智子が「見栄張りも相変わらずだね」とくすくす笑ってきた。くそっ、久しぶりのこのいじり、なんかむかつく…。
「そういえば、よく迷わずにここまで来れたね?」
由佳は早智子に聞いてみた。新幹線の駅からここの高校まであまり遠くはないものの、道が複雑に入り組んでいるため初見なら迷子になってもおかしくない。最初この土地に来たとき、由佳も携帯の地図アプリを見ながら高校を目指したものの、それでも迷ってしまったほどである。よく迷わず来れたな、と由佳は感心した。
「あ、ああ…まあ、なんだろ。勘ってやつかな?」
「何よ勘って」
由佳は思わず吹き出してしまった。早智子は少し天然なところがある。勘でここに来れたら私の苦労は何だったのか。まあ、早智子らしいや。
由佳はこのとき、早智子の微妙な表情の変化に気づくことができなかった。




