第二部 文化祭①
(うーん、どうしようかな…)
文化祭初日。泰樹の店番は1日目の午前中となっており、午後はフリーとなっていた。今回の文化祭、由佳から一緒に回ろうと誘われてはいたものの、1日目は急遽転校前の高校の友達がこの文化祭に遊びに来るらしく、泰樹との約束は2日目にずらされていた。
いくら人と接する機会を増やしたとはいえ、このふわふわ浮いているような雰囲気が苦手な泰樹は、午後はひっそり家に帰ろうかと画策していた。最後の出席取る時に学校に戻ればいい。家でも勉強してようかな…。
「家で勉強していたい!みたいな顔するのやめな!」
ふと顔を上げると亜里沙が友達とお化け屋敷の列に並んでおり、先頭にいた。
「あのなあ、お化け屋敷の中身知ってるおまえ入ってどうすんだ?」
「加奈は知らないでしょ?」
加奈というらしい亜里沙の友達がこちらをみて「どうも」とお辞儀した。見たことあるようでない顔。そんな印象だった。
「いいんだよそんな。こいつにかしこまらなくて」
「いやお前何様だよ…」
「…ふふっ、亜里沙って本当に泰樹君と仲良いんだね」
加奈がふふっと微笑む。加奈のほうは泰樹のことを事前に知ってたらしい。亜里沙から聞いたのだろうか。
「まあ、腐れ縁ってやつかな」
「腐っても切れない地獄の鎖でつながれた縁だけどな」
「なによーそこまで言わなくてもいいじゃない!」
「泰樹!早く次入れてくれ!」
亜里沙との口論に夢中で、クラスメイトが出していた入室許可の合図を見落としていた。泰樹はクラスメイトに「悪い悪い」と謝り「ほら、出番だぞ」と亜里沙たちに告げた。
「よーし、戸田を驚かしてやる」
戸田は今お化け役の当番のはずだ。最近やけに亜里沙と戸田が二人で話すのを見かける。いつの間に仲良くなったのだろうか。
「あ、そういえば」
「なんだよ、後ろ詰まるから早くいけって」
「最後に一個だけ!」
「…何、どうした?」
観念した泰樹を見るなり、お化け屋敷に入りかけていた亜里沙は泰樹に駆け寄り、顔を近づけて耳打ちしてきた。
「由佳と、どうなの?最近」
泰樹は固まってしまった。実際、あれから仲直りはしたが、最初の状態に戻っただけで正直それ以上の進展はなかった。週2くらいで一緒に帰ってはいるが、ただ他愛のない会話をしているだけだった。
亜里沙は「まあ、あとで聞かせてね」と言うと加奈のところへ戻り、戸田たちお化けがいる室内へ入って行った。
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もうちょっと由佳との仲、進展してくれればなぁー、と泰樹は歩きながら思った。
結局、午後は帰ろうと思っていたが校門に先生が見張っているという情報を得た泰樹はしょうがなく校内でゆったりできる場所を探していた。
適当にぶらぶら歩いていると、校門の方へ出てしまった。無意識に校門に出るとかそんなに帰りたいのか自分…。
!?
校舎の方へ引き返そうとしたとき、校門の方に見覚えのある人がいたような気がした。もう一度校門の方を見るが、いるのは見張りをしている先生二人だけで、他は誰もいない。店番のし過ぎで人が多く見えてしまったのだろうか…ってそんなわけない。気のせいだよな。…まさか、な。泰樹は再び校舎の方へ引き返した。
ふと、急に強い秋風が吹く。その寒さが、泰樹の頬に強く刺さった。