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突き刺さる秋の風


一瞬、肌寒い、秋風が吹いた気がした。


この地に戻ってくるのは久しぶりで、懐かしい風景を見ながら道を歩く。この地で楽しい思い出やいい思い出はあったか?と聞かれたら、まあそれなりにあったと答える。少ないながらも知り合いはいるし、よく部活帰りにみんなで楽しくこの道を通っていた。


ただ、心の中では『いい思い出』というのは上書きされていくものだと私は思う。

たくさんの思い出の中で、『楽しい思い出』、『気分がよい思い出』というのは何故かパソコンの圧縮ファイルみたいに、同じような思い出はだいたい一つとなり、心の中ではあまり容量を取らない。

だから、「たくさん楽しい思い出があったか」と聞かれると、一応「うん」と答えるが、実際パッと出てくるのは特に印象深かったもの…一つや二つくらいである。


それに対して、『嫌な思い出』『苦い思い出』というのは消えずに積み重なっていくもので、しかもかなりの容量を取る。

消したくても消せない思い出。俗にいう『黒歴史』というものであればただ恥ずかしいで済むのかもしれないが、それ以外は別である。私にも消したくても消すことのできない『悪い思い出』がこの地にあり、それのせいで深くて、大きな傷が心の中にある。もちろん、私のせいでもあるのだが。


正直、この地に再び訪れるとは思わなかった。友達の頼みということもあって重々承知したが、本当はあまり来たくはなかった。


もし、私に関連する人がいたら。もし、私の『悪い思い出』を知っている人と会ってしまったら。


怖い気持ちもあった。が、今は新しい地で楽しく暮らせているのだし、会ってしまったとしても無視してしまえばさほど関係ない。もちろん、今住んでいる地では、この地で起こった出来事は一切話していない。話せるはずがない。


ふと、ジャケットのポケットに入れていた携帯を取り出してみると、メッセージが来ていた。


『今どこら辺?迎えに行こうか?』


実際住んでいたのだからそれくらい行けるわ。そう心の中で思ったが、親切心から送ってきてくれていることは分かっていたので心で思ったことは送れるわけもなく、私はフリック入力をするために右の親指を動かす。


『ううん、大丈夫!もう少しで着く!』


そう返事をすると、歩みを速めて目的の地へ向かった。


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思ったより、待ち合わせ時間よりも早く到着してしまった。15分ほど余裕がある。しかし15分で何かできるわけもなく、とりあえずこの場で待つことにした。

秋とはいえ、この地の秋は風が冷たく東京なんかと比べると気温も低い。立ったままでいるとすぐに体温を奪われてしまう。私はマフラーを巻いてこなかったことを後悔した。少し歩こう。


ふと、視界の隅に、『あの人』が映ったような気がした。急いで首を振って探す。

しかし、『あの人』はいなかった。気のせいだったのか。でも、見間違えるはずがない。確かに『あの人』だったと思う。


まさか、そんなことは、ね。



秋風の寒さが、私の頬により強く刺さったような気がした。


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