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心地よい夏の風


真夏の日中に吹く風は、暑くて、じめっとしていて、その風を受けると『早く冷房の効いた部屋に入りたいな』とか『夏って暑くて嫌だな』とか、そんなことをいつも考える。でも、夕方になると、その暑さも少しは引いて、ヒグラシがちょうどいいBGMを流してくれて。『やっぱり夏っていいなー』とか、『風鈴の音、聞きたいなー』とか、そんなことを思う。


「結局どうなったのかねぇ」


隣で亜里沙が前の二人を見ながら呟く。本当に、どうなったのだろうか。


「まあ、仲直りはしたんだろ」


同じく、前を歩く二人を見ながら、亜里沙の疑問に答えるように呟いた。


あの後、俺がほかのクラスメイトと連絡を取って、遅れて打ち上げに参加することになった。もちろん、4人で。

薫については、陸上部が放課後に練習があることを知り、亜里沙と部室に放り投げてきた。もちろん、余計なことを言わないように口をふさぎながら。前を行く二人は俺らが薫を『運搬』するのを見て笑いながら、陸上部の部室までついてきた。普通何かおかしいと思わないのかあの二人は。それとも、あの二人は俺が思っている以上に天然なのか。


「仲直りだけかねぇ…」


亜里沙が遠くを見るように目を細める。


「まあ、信じるしかないでしょ」


「私たち、応援したいのか邪魔したいのか、どっちなんだろうね」


亜里沙がこちらを見ながら微笑む。その顔がとても切なくて、思わず抱きしめたくなった心を何とかして制止する。ここで抱きしめたら本当にセクハラだ。


「…まあ、一応、応援なんじゃないか」


心を制止するのに精いっぱいだった俺は何とか言葉を紡ぎだす。


「そうかぁ…なんか、失恋した気分だなぁ」


亜里沙が頭の後ろで両手を組みながらため息をつく。それは俺だって同じだ。


「じゃあ、俺と付き合ってみる?」


俺は冗談で提案してみた。が、直ぐになんでこの空気でこんなこと言ってしまったんだと後悔した。


「んー、まあ、悪くはないんだけどねぇ…少年Tよ」


「まだそれ言うか」


亜里沙は「へへー」と笑顔になる。なんだ、まんざらでもないのか?


「私は諦めないかな。まだ付き合ってるって決まったわけじゃないし。ありがとね」


えっと…このありがとうって『気を使ってくれてありがとう』ってことだよな?俺、振られた?…まあ、笑顔になってくれたからいいか。


「仲直りまではお膳立てしてあげたけど、ここからはガチンコ勝負だからね。見てろよー由佳!」


俺が返事する間もなく亜里沙は前を歩いている二人の間に割って入っていった。

なんだよもう、俺を置いていくなよな。


「俺も、負けないようにがんばるか」


そう呟くと、俺は前を歩く三人のうち、男と亜里沙の間に入り込むように後ろからダイブする。なんか、こういうのって、青春だな、と思った。



ダイブした瞬間、心地よくて暖かい夏の風を、体全体に感じた。


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