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第一部 求めていたもの②


「おまえなぁ…空気読めって…」


戸田と亜里沙は4階の渡り廊下入り口手前で薫を取り押さえていた。戸田が後ろから手で薫の口をふさぎ、亜里沙は両手両足をがっちり固定している。


「セ、セクハラだこれふぁ…」


薫が戸田の手で抑えられている口を懸命に動かし、何やらごもごも言っている。全く…あともうちょっとだったのに…。


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あの後、戸田と亜里沙は由佳の後を追いかけていた。さすがに由佳は足が速く、亜里沙は見失わずに追いかけることができたものの戸田はなかなか追いつけず、少し遅れて渡り廊下入り口のちょうど陰になっているところに到着した。


「おまえら速いわ…で、どうなってる?」


「しーっ!」


先に到着して覗き見していた亜里沙が右手人差し指を戸田の口に当ててきた。


「…で、今どんな感じ?」


状況を理解した戸田がひそひそ声で亜里沙に聞く。


「和解した。もうすこしでくっつく」


亜里沙はウキウキしながら話していたが、その反面、どこか悲しそうな目をしていた。


やっぱり、辛いんだろうな。俺だって、辛い。けど、ここまでやってきたからには、やり通すのが筋なんだろうな、と思う自分がいた。おそらく、亜里沙も同じことを思っているだろう。


ふと、後ろの方で階段を駆け上がってくる音が聞こえた。この時間、この場所に来る生徒はまずいない。誰だろうか。戸田と亜里沙は顔を見合わせた。二人はちょうど渡り廊下入り口の隅の方にいるため、近づいてくる人物をすぐには確認することはできない。


タッタッタ…軽快な足音と共にその人物が近づいてくる。走ってきているようだが、なかなか軽い足音である。この走り方、陸上部だろうか…。


ん?陸上部?何故かとても嫌な予感がする…。


「まさか…」


亜里沙も勘づいたようだ。ここにあいつが来るのはまずい。どうにかしないと。


足音がもうすぐそこまで来ていた。これは何としてでも止めなければならない。戸田と亜里沙はお互いに目配せをした。


そして、その人物が渡り廊下入り口…戸田と亜里沙の目の前に現れたとき、二人はその人物に飛び掛かっていた。


「泰樹せんぱ…っ!!」


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何とかすぐに隅の陰まで引きずり込めたものの、こいつ―薫―が叫んだせいで雰囲気を台無しにしている恐れがある。


「全く…どうしてここにいるってわかったんだお前」


「だって外からいふのが見えふぁから…てかあんた誰ふぉ!」


ごもごもさせながらも一生懸命話している。その気迫だけは評価してやろう。


「亜里沙、どうなってる?」


戸田は亜里沙に聞く。亜里沙は「あっ、そうだった」と慌てて、再び覗こうとする。


「あっ…」


亜里沙が言葉を失っている。なにかあったのか?

抑えている薫から亜里沙の方へ視線を移そうとしたとき、言葉を失っている答えが戸田にもすぐに分かった。


「…3人で何してるの?」


目の前には泰樹と由佳が立っていた。あーあ。みつかっちゃった…。


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「えーと、プロレスごっこ」


戸田がよくわからない言い訳をしている。


由佳と顔を見合わせた後、二人はとりあえず声のした方へ向かってみた。すると、隅の方で戸田が薫の口を抱え込むようにして手で押さえ、亜里沙が薫の上に乗って手と足を押さえつけていた。

どう見てもプロレスには見えないが…


「ほ、ほら、最近流行ってるじゃん」


亜里沙も訳の分からないことを言い出した。流行ってるなんて聞いたことないが…。


「あれ、二人とも打ち上げは?」


そういえばと、由佳が戸田と亜里沙に聞く。確かに、この二人はとっくに打ち上げに行っているものだと思っていた。


「えーと、諸事情で遅れていくことに…」


「なんじゃそりゃ」


戸田の言い訳に泰樹は思わず突っ込んでしまう。横では由佳がくすくす笑っていた。それにつられて泰樹も笑う。まあ、なんだかよく分からないけど、由佳が笑ってるからいっか。


戸田と亜里沙もつられて笑って(苦笑)いる中、「よーし!」と由佳は言うと手をパンパンと叩いた。


 「打ち上げ、行こっか!」


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