第一部 体が勝手に
私が出場した女子バスケは結果的に優勝した。
しかし、それ以上に泰樹が薫と楽しく話しているところが強く印象づいてしまい、優勝して皆が喜んでいる中、一人だけ上の空だった。総合優勝が決まった時も、皆のノリについていけず、懸命に愛想笑いをすることしかできなかった。
閉会式が終わり皆が意気揚々と引き上げていく中、由佳は「球技委員の片づけがあるから」と嘘をつき、一人になりたくて体育館裏に来ていた。
皆が帰ったころに教室に戻って、荷物を回収して帰ろう。打ち上げは参加しなくていいや。そう思っていた時、急に隣に気配を感じた。
「由佳―どしたー」
いつの間にか現れた亜里沙が私の横に座り、膝の上で頬杖をついていた。
「えっ、みんなと教室帰ったんじゃないの?」
「だって由佳が一人でどこか行ったから心配で…」
亜里沙が小声になりながらうつむく。亜里沙は私のことを本気で心配してくれているようだった。
だけど、この色々な心配事の根本でもある…泰樹が好きだということを亜里沙に話してしまったら、亜里沙との良好な関係も終わってしまうかもしれない。絶対言ってはダメだ。そう言い聞かせていた。が…
「泰樹と何かあったの?」
言わないようにしていたことについて、亜里沙の方から聞かれた。どうせ亜里沙だって泰樹のことが好きなくせに。
「あの…さ…」
「ん?どした?」
「亜里沙って、泰樹のこと好きなんでしょ?」
つい心の声が漏れてしまった。しまった、やってしまった…。
しかし、由佳の後悔とは裏腹に亜里沙はきょとんとしていた。
「へ?私?そんなわけないじゃん!」
「だってあんなに仲良さそうにしてるし…しかも中央支部の時だって…」
由佳が消え入りそうな声で話しているのを聞いて、亜里沙が「なるほど、あいつの言うとおりだったわ…」と訳の分からないことを言ってから一息つき、亜里沙の方を向いた。
「私は泰樹のこと、好きになるなんてこと…ないよ。幼馴染だし、距離感がほかの人と近いだけ。由佳、来たばっかだし…勘違いするのも無理はないか」
亜里沙がニコニコしながら答えた。
そうだったのか。これまでの行動や言動を見て、勝手に亜里沙も泰樹のことが好きなんだと思い込んでいた…すべては私の勘違い。そう思うと、なぜか心が少し晴れたような気がした。
「あと、泰樹と…」
「あいつと薫ちゃん、何もないってよ」
亜里沙が何か言いかけた時、いつのまにか後ろにいた戸田くんが亜里沙の言葉ににかぶせてきた。何故戸田くんまでここに…。
「ちょっと、あんた泰樹の方は?」
「それがよ、探しても、見つからなくて…」
「だからあんた息切らしてるの?ウケるんですけど。見とけって言ったじゃない。泰樹帰っちゃったらどうすんのよ」
「いや、ほんと、すまん…とりあえず、電話してみる…」
戸田くんが泰樹に電話をかける。さっきからしている亜里沙と戸田くんの会話、何のことだかさっぱりわからなかったが、泰樹の名前が出てきていたため由佳はドキッとしてしまった。
それよりも、なぜ泰樹と薫が一緒にいたことを亜里沙は知っているのだろうか。あの後合流したときはずっと体育館にいたと話していた。戸田くんから聞いたのだろうか…というか、なぜ私にそのことを?
「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない!」
亜里沙は由佳の心を読んだかのように、由佳の背中をバシバシたたく。
由佳はよく分からなかったが、『泰樹は薫と付き合っていない』『亜里沙は泰樹のことが好きじゃない』という2つの安心に満たされて、いつのまにか涙があふれそうになっていた。
「とりあえず、今は4階の渡り廊下に、いるみたい!行け!急がないと、あいつ、帰っちまう!」
戸田くんが整っていない息そのままに、携帯電話を耳から離して私に伝えてきた。泰樹がまだ校舎にいる…。
『何で私にそんなこと言うの?』
って戸田君に返事をしたり、
(どうしよう…行っても話してくれるかな)
とか考える前に、
由佳の体は勝手に4階の渡り廊下へ走り出していた。




