第一部 渡り廊下と夕日
球技大会が無事終わり、泰樹たちのクラスは総合優勝することができた。
泰樹と戸田が出ていたバレーボールは準決勝で敗れてしまい3位だったが、女子のバスケが優勝し、ほかの競技でも最低ベスト4を維持したおかげで総合成績では圧倒的トップだった。
戸田に促されていたものの、泰樹は結局女子バスケの試合を見に行く気になれず、球技大会の大半を体育館裏でサボタージュしていた。女子バスケを見に行った戸田が「由佳ちゃん大活躍だったぞー」と言っていたが、泰樹にとってはどうでもいいことだった。
体育館で行われる閉会式で担任の須田を胴上げした後、教室に荷物を取りに戻り、そのまま下校となる。球技委員の3年生は後片付けを免除されているため、泰樹はクラスメイトと一緒に教室へ戻った。
クラスに着くなり「今日は打ち上げだ」「勉強は明日から」などなど周りが騒ぎ出し、教室はかなり騒がしくなった。一日いろいろあったせいで体力的にも、精神的にも疲れていた泰樹は戸田に「打ち上げの場所決まったら教えて」とだけ伝えて教室を後にした。
教室を出たものの、そのまま帰るのもなんだかもったいない気がして泰樹は校舎内をうろうろしていた。
「うわ…きれい…」
気が付くと、最上階である4階から街の景色が見えるガラス張りの渡り廊下にいた。
泰樹たちの高校は丘の上に建っている。4階の新校舎から旧校舎に行くまでの渡り廊下が一面ガラス張りになっており、校内では景色がよく見える場所で有名になっていた。有名なせいか、渡り廊下であるにもかかわらずベンチまで設置されている。4階には特別教室か図書館しかないため、この渡り廊下を通ることは滅多になく、この夕焼けの景色を見たのは入学以来初めてのことだった。
泰樹が通ったときには夕日が廊下に差し込んでおり、それが丘の下の街の方に抜けていて、まるで街が夕日で照らし出されているようだった。感動した泰樹は思わず、高校生活で一度も座ったことがなかったベンチに腰を下ろした。
「あーあ。なんでこうなっちゃったんだろう…」
泰樹はこれまでのことを振り返りながらため息をついた。
由佳にかかわらなければ好きなんて気持ちが出ることなんてなかったのに。好きな人を傷つけることなんてなかったのに。こんなに後悔しているのなら、今すぐにでも由佳のこと諦めればいいのに…あきらめきれない自分が心の中にいた。
ふと、外の景色を眺めていると、携帯が震えだした。戸田からの着信だ。
「もしもし」
『もしもし!今どこ⁉』
「どこって、4階の渡り廊下だけど…なんで?」
慌てているような声音で戸田が聞いてきた。なにかあったのだろうか。
『いや、何でもない……とりあえず…行け…』
戸田が後ろにいる誰かに何かを伝えているようであった。が、電話越しであるためか詳しい会話は聞き取れない。
「はぁ?どこに行けって?」
『ごめん、なんでもねぇ』
「は?」
訳が分からない。泰樹の頭の上に付いている疑問符が増えていく。
『あのさ、泰樹』
「ん?」
『由佳ちゃんのこと、まだ、好き?』
急にそんなこと言われても困る。しかも他人に由佳のこと好きって言ってないのに、何で頭に「まだ」がつくんだ?
「好きかって…その前に彼氏いるだろ?今日見たぞ?」
『見たって…もしかして大久保の件?』
「大久保って誰?」
『文系クラス、高身長、イケメン』
「ああ、あいつ大久保っていうのか。由佳の彼氏だろ?」
美男美女、お似合いカップル。悔しいけど、認めるしかない。
『おまえ何馬鹿なこと言ってんだ。あいつ、今日由佳ちゃんに告白して盛大に振られたんだぞ』
「えっ、そうだったの?」
『そうだよ。お前が見たのはたぶん由佳ちゃんがしつこく迫られてるシーンだったんじゃね?』
そうだったのか…って、なんで俺がそのシーンを見たこと知ってるんだ?戸田のやつ、コンビニに行ってたはずじゃ…。
『由佳ちゃん、今は彼氏いないぞ。で、どうなん?好きなん?』
彼氏がいない―内心すごく嬉しかったが、傷つけてしまった以上は由佳に近寄ってはいけない。泰樹はずっと心に言い聞かせていた。だから答えは一つしかない。
「え、えっと…好きではない…ではなく…」
ああもう、なんでこんなに歯切れが悪くなるんだ。「好きじゃない」って言ってしまえばいいのに。言ってしまえばすべてが楽になるのに。だけど、それを言ってしまうとすべて終わってしまいそうで、言えなかった。
(由佳のこと、本当は好きなんだよ)
もう一度だけ、もう一度だけでいいから話がしたい。
そう思っていた時、渡り廊下入口の方から声がした。
「泰樹っ!」




