第一部 球技大会③
「そうなんですよー!クラスでかなりドやりました!」
一緒に話そうというものだからとりあえず薫を隣に座らせたが、もじもじして何も話さないので「そういえば、県大会優勝おめでとう」と声をかけると、薫は笑顔に戻って「ありがとうございますっ」とお辞儀をした。
これで緊張が解けたのか、「一生懸命練習した成果です!」「中学の時の友達に自慢してやりました」「最後の20m、あれ結構きついんですよー」などなど息つく暇もなく次々と話してきた。いわゆるマシンガントークというやつなのだろうか。
泰樹も何か話を振らないとと思い、これまでの心象から「君、クラスで人気ありそうだね」と聞くと「えっへん!」と分かりやすく胸を張って答えた。ちょっと可愛いな、と泰樹は思った。
この子はかなり積極的な性格なのだろうか。ただ、話の内容としてはとても素直で、面白かった。
良い子だなと思い始めたとき、薫が「そういえば」と携帯をとりだした。
「連絡先、交換してもらってもいですか?」
いきなりかよと思ったが、特段断る理由もなかった…というよりも『今は誰ともかかわりたくないからできない』なんて答えたら逆に学校中の噂になるかもしれないと思い、「あ、ああ、いいけど…」と仕方なく連絡先を交換した。
「あの…先輩、さっきの試合かっこよかったです。自分のクラスは負けちゃいましたけど、次も見に行きますね!」
薫はそう言うと立ち上がり、「うちのクラスのバスケの試合、もうすぐ始まるんで行きますね!終わったら連絡します!」と言って小走りで体育館へ戻ってしまった。少しだけ聞きたいこともあったが、何も聞けなかった…というよりかは、こちらが話す隙なんて無かったと言った方が正しい。とりあえず、あっという間の出来事だった。
「さっきの子、誰?」
あまりにも近くから声がしたのでびっくりすると、体育館の入り口方面とは反対側の物陰から戸田が出てきた。
「なんだよ…びっくりさせるなよ…」
「で、誰なの?」
「なんか後輩らしい。さっき声かけられた」
戸田が「ふーん」と言った後、
「で、その子とは良い感じなの?」
と言って泰樹の隣に腰を下ろした。
「いやいや、さっき会ったばっかりだよ」
戸田はまた「ふーんそうなんだ」と意味深に答えてきた。
最近ごまかされることが多いな…追及してやろうかとも思ったが、逆にまた由佳の件で追及されるかもしれないと思い「そういえばコンビニで何買ったん?」と話題をそらした。
「飲み物だわ。紅茶ティー」
「しっかり俺の分もあるんだろうなー?」
泰樹が聞くと「あとで130円な」と戸田が言うので、戸田が持っていたコンビニの袋の中を確認した。確かに紙パックの紅茶ティーが二つ入っていたが、それ以外にもう一つ、見慣れないものが入っていた。
「シュークリーム?甘いものなんて珍しいな」
戸田は甘いものが嫌いで、特に洋菓子系は全然食べられなかったはずだ。何でこんなもの入ってるんだ?
「まあ、買って来いって言われたからな」
「誰に?」
戸田は「えーと…」と言葉を濁した。戸田にしてはこれまた珍しい。
「少女A、かな」
「誰だよそれ」
泰樹は思わず噴き出した。誰だよ少女Aって。犯罪者かっての。
が、戸田は泰樹が笑っているのを気にすることなく「まあ、それよりもそろそろ昼休みだから教室いこうぜ」と泰樹を促した。




