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第一部 球技委員②


…なかなか話しかけづらい。


夏休み前日の放課後、一回目の球技委員会が行われている会議室で、由佳は隣に座っている泰樹を横目に見ながら心苦しく思っていた。


由佳自身、体調はだいぶ良くなっていた。さすがに一週間も絶対安静していると疲れもすっかり抜け、今まで鉛のように重かった体も今では空を飛べるんじゃないかと思うほど軽くなっていた。医者からは最終的にオーバートレーニング症候群ではないということを伝えられ、心も少しだけ軽くなったからかもしれない。


ただ、依然心の奥底に、とても重く、鋭いものが刺さっているような感じがした。それを取り除くために、取り除けなくても意識しないように、球技委員をやろうと思った。忙しくなればそんなこと忘れてしまうだろう。亜里沙も「球技委員、去年やったんだけど案外面白いよ」と言っていたし。楽しいことをしながら忘れられるとか、そんな機会なかなかない。


だから私は真っ先に立候補した…までは良かったのだが、まさかもう一人が泰樹だなんて。最悪なのか最高なのか、よくわからない状況だった。


「じゃあ、今日はこれで終わりです。お疲れさまでした!」


球技委員担当の先生が委員会を締めた。毎週来なければならないと聞いていたが、今年から三年生の仕事が軽くなっていて、ほとんど委員会に来なくてもいいらしい。その代わり、由佳と泰樹が任された仕事は対戦表作りだった。組み合わせは下の学年が決め、その表を作るというものらしい。先生は『委員会に来ない=軽い』と思っているのだろうか。由佳は「逆にめんどくさいやつじゃん」と心の中でつぶやいた。


どう仕事を分担しようか。泰樹に声をかけたかったが、あんなことを言ってしまった今、由佳から声をかけるのは躊躇われた。どうしよう、そう思っていた時、


「俺やるよ。パソコンうちにあるし。すぐ終わるから任せて」


と、泰樹がこちらを一切見ずに、帰りの支度をしながら話してきた。


そんなこと言われても困る。まるで私が仕事投げたみたいじゃないか。私だってパソコンくらいできる。何ならうちにあるパソコン、ハイスペックだしうちで一緒に作業しよう。


本当は、そう言いたかった。でも、言葉が出なかった。


由佳が返事に戸惑っていると、泰樹は「じゃ」と言い残して帰ってしまった。せっかく話す理由があった千載一遇のチャンスだったのに。


由佳はただ、泰樹の背中を見ることしかできなかった。


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もう関わらない。そう、決めたのに。不幸なことに球技委員になってしまい、さらに由佳も球技委員ということが分かり、泰樹はどうすればいいのかわからなかった。まさかすぎる展開だったが、関わらないと決めていた泰樹は、とりあえず仕事を一人で受け持つことにした。


「俺やるよ。パソコンうちにあるし。すぐ終わるから任せて」


気まずくて顔は見れなかったが、勇気を出してそう話しかけた。が、由佳から返事はもらえなかった。たぶんそんなの当たり前だということなのだろう。『私を傷つけた分、お前が全部やれ』ということなのだ。


当然、前みたいに仲良く話せるなんて思っていなかった。ただ一方で、由佳から明るい返事が来るのを待っていた自分がいた。


話しかける理由があった千載一遇のチャンス。話しかけたのに、投げたボールは帰ってこなかった。


それを、心の奥底でとても悲しんでいる自分がいた。


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