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第一部 残った事実 ―佐藤泰樹―


由佳がいる病室を後にした泰樹は、由佳から言われた一言で重くなっている心を一生懸命引きずりながら家路についていた。


『君がいなければ、こんなことにならなかった』


心の奥底で沈んでいたこの言葉。

海底に埋まっていた黒くて重い物体が急に海面に出てきたような感覚。

自分があまり周りの人と関わらないようになったきっかけ。それが、この言葉だった。


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このセリフを最初に言われたのは、中学の時、当時付き合っていた早智子からだった。

あまり思い出さないようにしようとするあまり、この黒い思い出は記憶から消えかかっていたが、今回はっきりと思い出してしまった。早智子が学校に来なくなった原因は、自分のせいでもあったと思う。



早智子とは、転校してきた時から席が隣同士ということもあってとても仲が良かった。さらに、家の方角が同じということもあって、泰樹はよく一緒に帰ったりもしていた。


そんな中、早智子が転校してきて一か月経ったある日。

いつものように一緒に帰っていると。早智子が顔を真っ赤にさせながら「私たち、付き合わない?」と告白してきた。断る理由など、どこにもなかった。


付き合ってからはオープンな関係として、聞かれたら隠さずにお互い付き合っていると話すようにしていた。

泰樹の場合、正直に話すと周りからよくある中学生のノリみたいなものでいじられたりネタにされたりしたが、特段悪い方向に進むことはなく友達と楽しくワイワイやっていた。


しかし、早智子の方は違った。どうやら、女子バスケット部内で泰樹のことが好きな子がいたらしい。

泰樹は気づかなかったが、その子は泰樹のことをずっと追いかけていたらしかった。

運が悪いといえばいいのかわからないが、その子は早智子が来る前から女子バスケ部の中ではリーダー的存在で、狙っていた男子を取られたその子は早智子を恨み、仲間外れにし始めた。そのとき早智子はまだ転校して一か月。その子の泰樹に対する好意など、知る由もなかったというのに。


そして中学校卒業式の日。早智子が最後だけ学校に来た。

早智子が不登校になってから、当時携帯を持っていない泰樹にとっては直接連絡を取る手段もなく『付き合い』は自然消滅していた。


その卒業式の時、体育館で席が偶然隣になった。泰樹がなんて声をかけようか迷っていた時、早智子の方から突然言われたあの言葉。


自分のせいでどれだけ好きな人を苦しめてしまったのだろうか。泰樹がいじめたり悪口を言ったりしたわけではないが、深い傷を負わせてしまったことには変わりない。


それ以降、泰樹はなるべく人とはかかわらないように生活しようと心に決めた。


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そして、あの時と同じように、自分が関わってしまったことによって由佳を傷つけてしまった。どう自分がその原因を作ってしまったは正直よくわからない。しかし、傷つけてしまったことには変わりない。


傷つけてしまったこともそうだが、それよりも由佳からその言葉を言われたことに泰樹は一番心苦しくなっていた。


泰樹は知らないうちに由佳を好きになっていた。


容姿だけじゃない。毎日ではないが、それこそ一緒に帰る日々の中で、由佳の中身にもだんだんと惚れていっていた。


明るくておちゃめで、真面目だけどちょっと不器用で。心の底から守ってあげたいと思える子だった。


でも、あの言葉を言われてしまったからには、由佳と話す機会はもう一生ないのかもしれない。




『佐藤泰樹は夏目由佳のことが好き。だけど、佐藤泰樹は夏目由佳を守るどころか傷つけてしまった。』




その事実だけが、泰樹の心の中に残ってしまった。


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