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第一部 異変③


中間考査が終わった。出来は良くもなければ悪くもない。いたって普通の出来だったなと泰樹は思った。


中間考査期間中は部活が休みとなるため泰樹は放課後、どこにも寄らず家に直帰していた。亜里沙は家とは反対側の予備校に通っているため、期間中はそこで勉強していたようだった。だから泰樹は亜里沙と帰り道一緒になることはなく、期間中は話すことも滅多になかった。由佳は期間中、学校で残って勉強していたらしく、同じく一緒に帰ることもなかったし、亜里沙の場合と同じく話すこともそこまでなかった。


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テスト翌日、なぜか朝早く目覚めてしまったため、泰樹は普段よりも30分早く家を出た。30分も違うと、車の通りは少なく、通学する人もいつもと比べて少なかった。朝の陽ざしは日中ほど強くなく、普段感じている風のひんやりとした涼しさが今日は冷たく感じられた。


学校につき駐輪場に自転車を止めると、ふと、奥の方に見覚えのある自転車が目に止まった。


(あれ?由佳、来てるのか?)


普段こんなに登校早かったか?と疑問に思いつつ、駐輪場からグラウンドの横を通って校舎に入ろうとしたとき、グラウンドで息を切らしながらランニングしている女の子が目に止まった。


(あ、なるほど…)


まぎれもなく、由佳だった。早朝練するなんてさすがトップ層は違う。泰樹は思った。中央支部総体で3位になってしまったのがよほど悔しかったのだろう。泰樹は何もしてあげられることができない分、心の底で由佳へエールを送った。


このときはまだ、泰樹は由佳の異変に気づくことができなかった。


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一週間もするとすべてのテストが返却され、ほどなくして上位優秀者が掲示板に貼り出された。泰樹の学校ではすべての成績を合計して文系理系ごとに上位30人が掲示板に貼りだされる。一学年300人程度いるから、上位10%が張り出されるというわけだ。いつもの感じだと、泰樹は30番前後、戸田は論外(下から数えた方が早い)、亜里沙は10番前後である。30番に入るといわゆる「旧帝大クラス」と呼ばれる部類の大学へ行けるようになり、上位10人はその中でも最難関校に行くことができるという一応の目安があった。


亜里沙はまさしく絵にかいたような文武両道をしていた。一方で聞く話によると、由佳の方も学力レベルが同等な転校前の高校でトップを何回かとったことがあるらしく、こちらも絵にかいたような文武両道だった。


「私の上、誰いるかなー」


「さあな。いつもと同じじゃないか?」


「なにそれ、今回は一桁だから期待してるんだもーん」


亜里沙が頭の後ろで手を組みながら泰樹の隣を歩いている。お昼休みに入った直後、亜里沙が後ろから泰樹の肩をつかみ「掲示板見に行こ!」と脳震盪になるんじゃないかと思うほど泰樹の肩を揺さぶってきたので仕方なく掲示板を見に行った。

一応個別では順位は先に通知されているので、正直見なくてもいいのだが興味本位で全体の順位を見たがるやじ馬たちが昼休みになると掲示板の前に集まる。順位を気にするなってみっともない(決して負け惜しみではない、決して。)と思っていた泰樹も、今回は不可抗力でその一人となってしまった。


掲示板に着くなり「うぉーどけどけー!」と言いながら掲示板にいたやじ馬の最前列まで掻き分けていった亜里沙を人込みの外で待つこと1分。突然人込みから亜里沙がひょっこり出てきた。


「おお、どうだった?」


「いつもと同じ。泰樹の順位はねー…」


「載ってなかったろ?だって31だもん」


「うーわ。残念無念また来年!」


亜里沙はやれやれと言わんばかりに両手を肩の高さまで挙げていた。ちょっとむかつくぞ…


「ま、まあ今回は本気出してないだけで…」


「まーた今回も一位希子ちゃんだったよー。ど―やって勉強してるんだろ」


泰樹の弁解を亜里沙は全く聞いておらず、腕を組みながら何やらぐちぐち言っている。


「まあまあ、あの人は帰宅部だからさ…」


上位陣の順位は人込みの外からでも見れるため、泰樹も目を細めて掲示板をみたが、亜里沙含め確かに見慣れた名前ばかりだった。部活が終わり切っていない今、順位の変動はあまりないのだろう。


(あれ…由佳載ってないな…)


泰樹は、掲示板に張り出されている紙に由佳の名前がないことが気になった。成績で言うと最難関クラスに入れるレベルと聞いていたが勘違いだったのか。それとも泰樹から見えない下位の方に名前があるのか。泰樹は首を傾げた。


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「もう9時か…」


負けたくない。もう、負けたくない。周りからの目などどうでもいい。必ず勝ちたい。何が私を駆り立てているのかは分からない。でも、もう負けたくなかった。テスト期間中、部活は休みだったが自主練に没頭していた。おかげでテストは散々だったが、そんなことはどうでもいい。勉強なんて今までの貯蓄の分ちょっとやらなくても挽回できる。


とにかく、県大会は優勝する。絶対に。私はそう決めていた。勝って、振り向いてもらうんだ。今度は一緒に帰るんだ。それまで、一日も油断できない。多分、恋なのか。こんな気持ちになるなんて。おそらく。恋なのか。由佳にはよくわからなかった。


由佳は校門が閉まるギリギリまで、自主練を続けていた。


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