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始まりは春の風

 ちょうど、春風が吹いた気がした。


 (うおっ、なんだなんだ…)

 強い風が吹いたかと思うと、左から女の子が自転車で猛スピードで抜いていった。


 高3の4月。自転車で登校している最中、同じ学校の制服を着ていて、同じく自転車に乗っている女の子に抜かされた。自転車に貼ってある青色のシールを見る限り、同じ学年の女の子らしい。この時間、この場所は2年間通い続けてきた道だし、ある程度すれ違う人や同じ方向へ向かう人は大体わかる。

 でも、自分を追い越していった女の子は見たこともない子だった。小さな顔、スレンダーな体、まるで芸能人のような子。こんなに目立つ子、早々忘れるわけない。でも、見たことない子だった。


 「痛いっ!」

 「うわっ」


 追い越して自転車一個分の差が開きかけた時、その女の子が右方向に転倒した…つまり自分の目の前で転んだ。

 当然(見とれていた)泰樹はその女の子をかわし切れるわけもなく、左に避けたはずみでバランスを崩し転んでしまった。女の子に当らなかっただけでも幸いだった。

 なんとか態勢を立て直した泰樹は女の子のほうを見た。女の子は派手に転んで上半身がうつ伏せ状態になっており、自転車の篭に入っていたバックは道に投げ出されていて教科書が散乱しかけている。


「大丈夫ですか?」


とても大丈夫そうには見えなかったが、とりあえずその女の子に手を伸ばしてみた。


「だ、大丈夫ですっ!ありがとうございますっ!」


 せっかく差し伸べたのにもかかわらず、女の子はよほど恥ずかしかったのか、スタっと立ち上がったかと思うと差し出した泰樹の手を無視し、急いで散乱しかけていた教科書をバックにしまった。


「そっか…大丈夫ならよかっ…」

「ありがとうございました!失礼します!」


 泰樹が言葉を言いきらないうちに、その女の子は捲し立てるように僕にお礼(?)を言い、急いで学校方向へ向かってしまった。


(なんだなんだ…)

 

 一部始終があっという間すぎて呑み込めていない泰樹はあっけにとられていた。

 とにかく学校へ向かおうと泰樹が自転車を起こそうとしたとき、ふと植え込みにお守りが落ちているのが見えた。落ちていた場所や土の汚れ等がまだついていないのを見ると、恐らくあの女の子のものであることに違いなかった。泰樹はそのお守りを拾い、裏返してみた。すると、裏には白い布が縫い付けられてあり、


『夏目由佳』


と書かれていた。


(まあ、自転車のシールからすると同じ学校っぽいし、届けてやるか)


泰樹はお守りを拾うと、その女の子‐夏目由佳‐が走っていった道を自転車で再び走り始めた。


夏目由佳が、佐藤泰樹の春風になった瞬間だった。


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