シンデレラは夢なんか見ずにしっかと大地を踏みしめる。
母は十数年前に儚く天に召され、父は遠征中。
新しい義母様と義姉様達。義母様は今日も態と床を汚し、這いつくばって掃除する私を満足げに眺めています…きっとこの汚れた水は私にかけられてまた掃除の繰り返し…こんな童話のシンデレラ様な待遇俺には…。
ん?シンデレラ?俺?あれ?
「…っこの灰被りが!!」
床に這いつくばって掃除してた私に、義母様の憎々しげな声色と肩を蹴倒される衝撃ー。ちくしょう今壁で頭打ったぞ痛ぇ。只でさえなんだか妙な記憶の混濁?融合?で、わやくちゃな頭の中整理するの大変なのに…頭全部心臓みたいにドクドクと耳鳴りだってするのに。
追い撃ちを掛けて床掃除用の桶ひっくり返すのやめてくれませーん?あーぁ、床びっしょびしょ。足癖悪くないかい義母様。
ついでにと言わんばかりにそれを喰らった俺、只今絶賛使用人扱われ中☆…ん?シンデレラ?
ーいやいやいや待て待て待て、灰被りって言ってたよね罵り言葉だよね決してネズミーのキャラクターに生きてる感が無いから必要なんじゃいと大喧嘩して「なら寸分違い無くやってみろやー!出来るもんかそんなの!」ってやらせたら女性アニメーターの頬紅の塗りに些かの狂いも無くて「女の化粧技術こえぇぇぇぇぇ」ってガクブルしてたヤツじゃ無いよねー?ってそれは白雪姫だったっけか。
「姉様2人の焼きごてはどうしたの!!舞踏会まで時間も押し迫ってるって言うのに、恥を掻かせようって言うの!?」
は い 確 定~☆
焼きごてって饅頭にジュウッてするヤツじゃなくて髪をカールさせる為のヤツ?
…あれって古代ローマな時代からの技術らしいよ知ってた?ーなんてトリビアの泉が溢れまくり。
「ボサッとしてないでとっとと動きなさい!!」
何も言わず考え込む私に苛立った義母様は、舌打ちひとつして足音も荒々しく部屋から出ていった。…本性にしてはお下品すぎるんでねぇの?
親父様よ。立てば芍薬座れば以下略な完璧超人だった母様の後釜がアレとは…、見る目の無さにちょっと引くぞ。まぁ平民な身分だったあの人達がこうなるのなんて火を見るより明らかだったんだけどさー。
そんな親父様は今、遠征真っ只中なのでこの状況を告発する術は無し。はてさてこれは面倒なー。
とりあえず状況を整理しようか、周りも片付けつつ☆
・多分転生した(アニメーターとか言ってる時点で皆さん御存知だね☆)もしくは前世の記憶大復活祭り。
・ほんの数ヵ月前に親父様が再婚して、義母と2人の義姉が出来ました。
・「私達仲良し☆ずっ(と)友(達)凌駕したずっ(と)家(族)☆」的な絵を描かせて親父様は年単位の遠征(単身赴任)へー。
・隊列が見えなくなると3人豹変。侍女→メイド→使用人レベルに扱いが悪くなる、義姉様方曰く「ホホホ、あんたなんかスープ1杯貰えるだけ有り難いと思う事ねっ!」……奴隷扱いでしたがな。
考えれば考える程、童話[シンデレラ]な世界でござるよ…、このままでも流れに任せておけば取り合えず玉の輿?
でもそのあとはー?
『幸せになりました、めでたしめでたし。』の後も人生は続くのだよ、王子様と結婚した後継者問題とか外交で強かな隣国との交渉で苦労しなかった?国を護る為に何を犠牲にしていく?助けてくれた魔女の狙いは?
幸せになったのは誰?誰にとってのメデタシ?
なーんてシリアス気味に考えつつも、偽…義姉様方の部屋で髪の毛をクルンクルンにしようと奮闘してるんですけどねーアハー☆
どす黒赤…、義姉様達曰く『そんじょそこらのルビーでは表す事の出来ない深い紅玉色』の髪を炭火で熱したコテに巻いて巻いて巻いて~…なんて必死こいてやってると、勝ち誇ったかの様な義姉様達の声が聞こえてくる。
「…ウプププッ、継子である私達が舞踏会に呼ばれてるのにアンタは『体調不良』で欠席するらしいじゃなーい?やだわー移る病気だったらどうしましょう、やる事やったらとっとと部屋から出てってよねー。」
ををぅ、私ったら体調不良だったのか。本人も知らなんだ(笑)
「ふっふーん 貴族のいいオトコ捕まえたら、ぶっ細工で役立たずのアンタなんか追い出す様に義父様に言ってやるんだから。1人しか産めない前妻の娘よりも、こんなに綺麗~な双子を産んだ母様の血を引く私達の方がよっっっぽど子供に恵まれる確率は高いもの☆」
「どうせ義父様は遠征に行ったり、王都へ出向いたりで家には居着かないしね☆私達3人で好き勝手にする為にはアンタ邪魔なのよねーぇ。ちゃんとした家があって食べ物があって遊んで暮らせるお金だってあって…、そこで私に夢中なオトコが居て始終愛を囁くの…あぁなんて素敵なのかしら♪その為にも今日は大切な日なんだから!気合い入れて手入れしなさいよ!」
何そのB級官能小説…。2人揃ってあったま悪ーい夢をベラベラベラベラ、左右からのサラウンド効果で何だかとっても苛リッチ☆くそぅ、作業のしやすさで横並びに座らせるんじゃなかったぜ。
…にしてもそろそろ現実を見てもらわないと後々拗らせそうだなー、決して義母様からの蹴りの八つ当たりなんかじゃないんだぞぅぅー。あー肩痛い。
「えぇ、えぇ、精々着飾って我が家にプラスになる様な家系のオトコを捕まえてとっとと出てって下さいまし義姉様方。」
夢見る夢子の時間は終わりでしてよ
「「ーはぁっ!?」」
言い返される&暴言のコンボは効果覿面で、あぁぁそんな立ち上がったら折角巻いたコテが……アラー義姉様方ったら凄い顔コワーイ☆
「義姉様方ったら身の程知らずに先程からペラッペラペラッペラと…、父様の真意を知らないで幸せな頭ですこと。いきなり生活が変わって大変だろうにと少々情けをかけてたつもりがいつのまにやら奴隷…そろそろご自分の立場と言うものを分かって下さいませんと困りますわ。遊びの時間は終わりですのよーあぁ時間が無いんでしたわ、髪を整えながら教えて差し上げます。」
とっとと座れやと櫛を片手に微笑む私に、ブスくれながらも話を聞く気なのか大人しく座り直す2人。あぁでも流石義母様の娘だわー、足踏んでる足(笑)
「義姉様方、うちの爵位はご存知で?」
「当たり前よ!男爵様よ!」
「ではその上は?」
「王様に決まってるじゃない、今夜の舞踏会が開かれるお城の。」
得意気に答える2人、鼻の穴広がってますよー。うんうん、ここまでが市勢の人の常識の範囲なのかな。ではー
「なら義姉様方の言う所の王様、『城伯』様の上は?」
質問にキョトンとする2人、まぁ城伯様を王様なんて言う位だからなー。分かんないか。
「義姉様方、この国では男爵の上は城伯、その上が伯爵・宮中伯・辺境伯・方伯・公爵・大公。そしてその上が王となっております。うちが爵位はあれど底辺なのは分かって頂けますね。」
素直に頷く2人、顔は何を言おうとしてるのかが分からずに胡散臭げと言うか怪訝そうと言うか。あ、足踏むの止めた。話を聞く気なのは結構な事で☆
「底辺が成り上がる為に手っ取り早い方法は『武』です。故に父様は遠征へ。そして血の交わり…、政略結婚で繋がりを持つ事です。」
結論☆
「武で成り上がる為の繋がり、嫁=人手って事で父様は義母様と再婚されたんではないかと。この御時世に平民で5体満足な娘2人を年頃まで育て上げてるなんて、油虫並みの逞しい生命力と繁殖力に惹かれたんではないでしょうか?」
「「はぁあああああ……っ!?」」
親父様がベタ惚れして結婚したんだと思っていた2人はショックのあまり固まって…あ、丁度いいや今のうちに髪のセット仕上げちまえ。これって昇天ペガサスなんちゃらとかトルネード花魁なんたらとかって名前だったっけ?この時代だと何て言うんだろ…。
「ささ、綺麗ですよ~義姉様方☆馬車も用意出来てますし、義母様も先程バッチリ準備は整って乗り込んでましたから。」
ちゃっちゃと行って来いや☆と、部屋から追い出すかの様に馬車まで誘導する。人間腰元をむんずと掴んで押せば歩くもんです、なんか派っ手~でヒラヒラキラキラした掴みやすいリボンついてるし。
「…っ、それでもアンタの居ないうちにめぼしい男は全部捕まえてやるんだから!ハーレムよハーレム!男女逆転の!!」
「私達の残り物の不細工なデェヴの爺で我慢するしかないのよアンタは!」
あー、無い頭しぼって考え付いたのがソレですか。
「ご心配なく☆義姉様方と違って、私には然るべき所の殿方との婚約は済んでおりますので♪ほら隣の領地の…そうです、貴女方の披露パーティーの時にお会いしたあの方ですよ。そーそー、義姉様方が始終両脇にすがり付いて離さなかったあの方です。
うふふふー、あの人ったら沈着冷静で『氷の貴公子』なんて言われてる割りには「君が舞踏会なんて出席したら…嫉妬で踊った相手をくびり殺したくなる」なーんて情熱的な事言うんですものー。」
正直、義母様の小細工は助かりましたわ☆
それがトドメになったのか義姉様方からは「キィィイイイイイイ」なんて奇声を発してますが、アハハーン扉閉めたから聞っこえませーん知りまっせーん☆馬車が見えなくなるまで手を振る私ったら優しーい。今日の馬車当番は暴走馬野郎オインゴ君と相棒のボインゴちゃんの仲良し兄弟だったからきっといい仕事をしてくれるに違いない。
さ て と
「をぅ糞親父、嘘っぱちの遠征お疲れ。」
振り返ると、数ヵ月は帰って来ない筈の親父様が平服で佇んでやがった。…やっぱり今回も遠征と見せ掛けて義母様方の動向を見てたな。
「やだなぁ糞親父なんて。パパンと呼んで…「嫌じゃボケェ」…くすーん子供が冷たーい(泣)」
「パパン頑張って遠征のフリ頑張ったのにー☆」なんて言ってるけど無視して首根っこ掴んで親父様の私室に叩き込む。
「毎回思うんだけどさぁー、貴族にどんだけの夢見てんだろねぇ。男爵なんて傭兵と一緒に肉かじりついて酒かっくらって下品で野卑な女の話して…、平民よりもよっぽど単純で淫靡で荒々しいモンなのにねぇ。養女達の夢(笑)の生き方って下級娼婦とどう違うんだろ、育て方間違えちゃったー?」
自嘲気味にヘラリと笑うのを聞き流しながらお茶の用意をして親父様の前に1つ、自分用に1つ。向かい側に座って一息。
「…今回ので通算5組目だぞ、新しい義母様と義姉様。いくら城伯様が『産めよ増やせよ』って言ったからって程度と限度があるだろ。」
「城伯様の言う事は絶対だもーん☆彼女達のお陰で我が男爵家も中堅層には食い込めて来たかなー?でももう少ーし縁の裾野を拡げたいから後2回位は再婚して手駒をぅぃぃ痛い痛い痛い無言での肩パンチは心身共にダメージがっっ!!」
理解は出来るが納得は出来んのじゃボケェェと肩パンチを連打して憂さ晴らしし、ヘッドドレスごとカツラをむしりとる。あー、蒸れた蒸れた☆将来禿げそうで怖ぇ。押さえつけられてた地毛をワッシャワッシャかきむしる。
「ーで、親父様よ。そろそろ『貴族学校』の入学時期だろ?在学中に『氷の貴公子』側に責任がある様婚約を御破算すりゃいいんだよな?そんでそれを苦に『私』が傷心で死んだ事にして、『俺』はこの家を出て好きに生きていっていいんだよな?」
そういう約束だったよなー?と眼光鋭く睨みをきかせると、冷ややかな笑みを浮かべて親父様が応じる。
「あの一族は昔っから邪魔なんだよねぇ、精神的優位に立っておきたいの。抑えられればこの辺の土地の管理一任させてもらえそうなんだよねー♪
成功報酬は『お母さんの名誉の保証と君の自由な人生』。失敗したら10年前に執行される筈だった『再婚時に娘だと偽り僕を殺して家を乗っ取ろうとした子』としての処刑。
どっちに転んでも僕はそこまで損失じゃないからねぇ。期間は在学中の3年、精々あがいてみてよ。」
そう言い放ちおもむろにカップに口をつけー
「っ…!ッゲホッッ!」
驚愕の顔で咳き込む親父様。いぇーい♪ひっかかった、その顔に満足しながら自分のカップに口をつける。え?毒物?やだなぁそんな訳ないじゃん、この人毒耐性あるし。
「ゲホッ!…っねぇ!ティーロワイヤルって紅茶にブランデーってスプーン1杯だけだったよねっ!?」
「誰がティーロワイヤルだと言った、ブランデーの紅茶割りだ。」
ふん、ブランデーの香りとティーカップに騙されおって。ティーロワイヤルはアルコール飛ばすの面倒だし、紅茶の風味が微かにするこっちの方が俺の好みなんだよ。
「酷ーいっ!!」なんて涙目で咳き込んでいるのを無視して部屋を出る、ついでにカップを下げてるのはメイド教育の賜物なのだ…ってか男だってバレた時にお仕置きと称してこの女装ずーーーっとさせられてるんだがな(遠い目)…で、度重なる遠征で不在になる夫と理想と違った貴族の生活、義母義姉妹達のフラストレーションの発散先は自ずと俺になり…と。そんな親父様からのお遊びも今回まで、次はリアルに生死がかかった馬鹿馬鹿しいまでの茶番劇になる。
「えーと…いつも通り義母様を修道院に送って(軟禁)、義姉様に花嫁修行(現実把握&洗脳)をして…。
後は対『氷の貴公子』か…。んー、昔言い寄ってきてたあの小悪魔メイド娘を従姉妹とか言って要所要所で使うか。最後に貴公子から貰った宝石だのドレスだの報酬にすりゃー全力で協力してくれそうだし、俺には要らないモンだし。
ーにしても親父様、嫁をとっかえひっかえ……いい加減にしないと青髭公かヘンリー八世かっつーの。笑えねー。」
まぁ、いいタイミングで前世思い出したよなー♪乙女ゲーム・婚約破棄・ざまぁ・ムーンライトノベル…折角甦った前世の記憶、存分に使わせてもーらおっと☆
…うん、好きな物全部突っ込んでみた☆これが限界。
後は獣人と剣と魔法のログれすゲフンゲフン☆
それにしてもうちのスマホは相変わらず「じゅうじん」を縦陣と変換する…そろそろ学習してくれんかのう。