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未来に託すもの

「俺は女ひとり守ることもできず、ダルティーマに屈した」

 ディールは、輝きを失ったセイラムクルスの結晶を強く握りしめた。


 アーヴァテイルは、結局レーシャに何も与えることなく、すべてを奪いつくした。

 彼女はすべて失った。

 祖国を、家族を、愛する男を、清らかな肉体を、高潔なる魂を。


 レーシャはダルティーマへと連れ去られ、皇帝の妃となった。

 それからしばらくして、ダルティーマはルートヴィナと同盟を結び、バロムアへと侵攻した。

 

 劣勢だったバロムアが敗北し、すぐにこの戦争は終結すると、誰もが思っていた。

 じつのところ、この戦争は半年も続かなった。帝国の勝利でもなく、バロムアの敗北でもなかった。

 突如バロムアの上空に現れた、神龍ヴァルナバアルによって、ダルティーマとルートヴィナの連合軍は壊滅的な被害を受け、撤退を余儀なくされた。

 そしてそれ以上の打撃をバロムアはうけた。一人の騎士が竜を殺し、神龍ヴァルナバアルの逆鱗に触れたからだと噂されたが、真偽のほどは定かではなかった。

 バロムアは呪われた地と呼ばれ、竜に支配される国となった。やがて、ダルティーマとルートヴィナの連合は解除され、両国ともに沈黙した。

  

 イリュリースの女王とて知りえない真実をバロムアは徹底的に隠ぺいした。

 その謎が解かれるまでには、十数年という時間を要した。


 レーシャがダルティーマに嫁いでたら五年ほどして、彼女が「ダルティーマの魔女」と呼ばれていることをディールは耳にした。

 あれから彼女に何が起きたのか、ディールは知る由もなかった。


 傭兵をやめたディールを用心棒として雇いたいという声は、少なからずあった。

 魔剣を所持している希少な戦士をただ遊ばせておくだけのはもったいないという声が大半だった。

 ディールはギルドも抜け、ひとりで腐っていた。

   

 イリュリースでくすぶっていたディールに新たな出会いがあった。

 リュ・デラの遺跡でいつものように肩慣らしをした帰り道だった。

 馬車が襲撃されているところを、通りかかり、一人の少女の命を救った。

 

 七歳の誕生日を迎えたばかりの幼い女王だった。

 女王ユナはレーシャが失ってしまったものをすべて持っているように思えた。

 だからこそ、純粋で幼い女王の命を狙う輩が許せなかった。

 魔の手からユナを守ること。

 ディールは新たな生き甲斐をみつけた。

 流れ者が宮廷に入ることを拒む連中も多かったが、女王の権限は絶大だった。

 その数年後、女王ユナのはからいで将軍の座に収まったディールは、方々を飛び回った。

 もちろんユナの護衛としてである。

 まだ幼いながらも、国に尽くすという言葉の意味を理解した少女だった。

 彼女は、国内各地を視察しては、道路と水道の整備を進めた。

「この国、馬糞くさい」

 とつぶやいた、隣国の魔法使いがきっかけだったようだ。

 事の発端となったリンディスに至る街道は手つかずのまま、荒れている。

「ここは最後なの」女王にはそれなりの思惑があるようだった。

 

 馬糞発言にもめげず、女王ユナは、今日も、

「オリンちゃん」こと隣国の少年魔法使いを追い回している。

「絶対に結婚するんだから」

 女王の執念もなかなかのものである。


 レーシャも幼い頃は、こうやってハロルドのことばかり考えて過ごしていたのだろうか。


 ディールは男心をつかむ手紙の書き方を教えて欲しいと女王にせがまれ、一緒に王立図書館にこもって徹夜した。

 出来栄えは、相手に、「果たし状かと思った」と言わせたレベルであった。


 隣国の少年魔法使いは、またしてもやっかいごとを突きつけてきた。

 馬糞の次は、手紙の書き方か。

 なにごとにもひたむきになれるユナがまぶしかった。

 そこにレーシャの姿を重ねる。

 リシテアが、レーシャが恋しい。本物のリシテアは殺されてしまった。レーシャも奪われてしまった。

 こんなことになるならば、あの時、レーシャだけを連れて、逃げるべきだった。

 だが、あの時は王都に向かうしかなかった。

 アズラニアの塔の攻略も、魔剣の奪取もすべてリシテアのためにしたことだ。

 一緒に逃げたかった。レーシャを救いたかった。


 ラヴィスニア陥落から約十年が経っていた。彼女が、息災なのを喜びたいところであったが、

だが、レーシャは魔剣のみを追い求める魔女となってしまった。

 

 レーシャは本当に記憶を失ってしまったのだろうか。


 ダルティーマにとらわれの日々。ハロルドとの思い出を抱えたまま、他の男に尽くすのは酷だったであろう。

 そこにリシテアとして過ごした日々の思い出も加わるとすれば猶更だ。


 アーヴァテイルは彼女を救済できたのか。それを知るときが、間近に迫っていた。


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