Dormouse (眠りネズミ)
かもめに帰還したとき真田さんは難しい顔をしていた。
「高橋少佐、情報を確認したいんだが?」
彼の顔は真剣だ。
「100mの球体の中が水というのは間違いないのかな?」
「確認したわけではないので推測ですが?」
「なるほど、水で満たされてるわけではない可能性もあるわけか」
彼は納得顔で頷いた。
「100mの建造物が宇宙空間に浮んでる方は悩まないんですか?」
「それは簡単だよ。私にも作れる」
さすがマッ○サイエンティスト、何事も無いように言ってのける。
彼が簡単に言うには宇宙空間にゴム風船を浮かべて少量の空気で膨ませると考えればいいそうだ。
ゴム風船を硬化型のゴム状樹脂(フラーレンを練りこんだシリコン樹脂がベスト)に変えて硬化後にその内側に真空蒸着の要領で、溶融した金属蒸気を付着させ鍍金しておけば強度も十分に上げられる。(私なら数キログラムの金を使って宇宙線防御もしてしまうなとは彼の言)
中身金ぴかの宇宙に浮かぶ水風船なのか……
「幸い自衛隊にはMU用のラインディング素材用の樹脂がある。あれで代用できるだろう。」
=練り込み用フラーレン分子構造=
「あの樹脂に練りこんでいるのはフラーレンとカーブンナノチューブを組み合わせた形だから宇宙線を捕獲して赤外線に変換する効果も見込めるな」
?
俺がわからない顔をしていると真田さんの説明に力が入ってきた。
いわく、カーボンナノチューブ内の超伝導を利用して筋電流の電子を補足して失活性のフラーレン84に送り込み赤外線放射することで筋動作を走査しているとか、フラーレン60では活性が残るのでだめだとか、音声は耳から耳へ抜けていった。
わかったのは真田さんならあの球体は作れて、もし想定どおりだと持ち込んだ水の量が常識では考えられないくらいに多いということ。満タンだと約30万トン……水族館のイルカ水槽でも1000トン、長征5型ロケットの低軌道投入能力でも25tだとすると満タンだと12万発、水槽サイズで40発のミサイルが必要になる。
確かに、満水状態はありえない。でもだとすると何であんなに巨大なものを作ったんだ?
直径10mで十分じゃないだろうか?
可能性としては球体の水表面を金属蒸気でコーティングして金属水槽を作る作業スペースとして作られた可能性があるそうだ。
まあ、無重力の金属蒸気の挙動なんて回転している物体中で無いと、均一塗布は無理だろうからある程度納得できるんだが。
「私の推定だと、あの球体の内側に溶融金属スプレーがあって金属を噴出させた反動で球体を回転させる。それで吹き付ける位置を変えて金球水槽を仕上げると思う。」
「要は工事用の足場があの球体で、中に水の小部屋があるんですね」
俺の脳ではその程度しか理解できなかった。
「そうだ。ゆえにあの球体内部からの連絡はサイドプロープの無いレーザー通信と推定される。」
素材的に究極のステルスに近い物質のため、電波や赤外線での観測は不可能。
それが100mの直径を持つにも関わらず、各国が手を出してない理由だそうだ。
ちなみに超音波ソナーは宇宙空間でどうやって音を伝えるのかという理由で不可能。
「で今回のチックの要望に合わせて、こんなものを作ってみた。」
そういうと真田さんは白衣のポケットから手のひらサイズのぬいぐるみを取り出して手のひらに載せて見せてくれた。
「OLST プロトⅡ ヤマネ(Dormouse)だ」
「ちっちゃいですねー」
見た目は小型のハムスターにしか見えない。
「小型化のためにバッテリー他は最小限にしてある。最長単独活動時間は15分だ。」
「間に合うんですか、その時間で?」
「無理だな。想定どおりなら2層の金属殻があるはずだし」
「どうするんですか?」
「弥生からUSBを通じて充電できるようにしてある。ペアなら24時間は楽にいけるだろう。」
弥生との連結前提か……弥生のお目付け役としては安心材料だが、無重力空間でどうやって移動するんだろう。
「移動エネルギーの節約からも軽量であることは重要だ。」
俺の考えは筒抜けのようで説明が続く。
「本来なら弥生も軽量型の宇宙用端末にしたいんだが、アリスの能力ではまだ他の端末を動かせるほどは学習していない。その点チックはドローン乗っ取りで操作方法のノウハウは豊富だ」
なるほど、ちゃんと考えて作ってるんだ。あとはロケットだ。
「ロケットは既存品の対艦ミサイルをブースター4基増加で使用する。先端重量3050gなら楽勝だろう。」
まあ、好きにしてくださいとしか言いようが無い。
それにしても真田さん楽しそうだな……「ミサイルの開発名はティーポットだ。いい名前だろう」
ああ、今この人ロケットじゃ無くミサイルって言ったよ。当てる気満々じゃないか。




