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作戦会議

シャワールームの前で立ちすくんだ俺の右肩に、彼女の左手がそっとのせられた。

「教育的指導ね。」

彼女の左上腕に見事な上腕三頭筋が浮き上がったかと思うと肩にものすごい圧力がかけられる。

反射的に俺は腹筋に力を入れるとたちまちシャツ越しでも見事に腹筋シックスバックが浮き上がる。

その腹筋に鉛をつめたバスケットボールを撃ちこまれるような衝撃が走った。

一撃で鉄壁の腹筋は粉砕され、柔らかなバラ肉と化す。

膝が笑い、崩れ落ちる直前に見た彼女の顔に表情はなく、不思議なことに目の奥には悲しみすら感じた。

「いい高橋、あなたはもう指揮官なの。兵にお気に入りを作ることはできないわ。」

お気に入り・・・?

「必要とあれば自分の代わりに死ねと命令しなくてはいけないのがあたしたちよ。」

そういう彼女は表情はないが苦渋に満ちた声だった。


「指揮官は兵に対し公平に扱う。この理由は特定の兵に感情が入ることで指揮ミスを防ぐ意味もあるの。」

・・・

「指揮官が愚痴をこぼせるのは同僚の指揮官だけ、他には弱みや隙を見せることは許されないわ。」

胃液が戻りそうでまだ口を開くことができない。

「ごめんなさい。正式な士官教育を受けていないあなたには酷な仕打ちかもしれないけど、今回は

隙を見せたあなたが悪いわ。士官専用のシャワールームに行けば防げた事態よ。」

ようやく顔を上げると見えた彼女の瞳は悲しいままだった。

・・・そうか。俺は気づかされてしまった。

彼女は、俺にむかってすらヒステリックに騒いだり、引っかいたり噛み付いたりできないんだ・・・普通の女の子のように・・・

それは俺も同じだから・・・そんな人間的な感情が戦場で出たらとっくに死んでいた。・・・生き延びる強さの代わりに切り捨てられ、歪になった人間の感情を改めて自覚させてしまったんだ。

俺はそのまま彼女の頭を抱くと静かに「ごめん、悪かった」そう呟いた。

するとまた腹筋に鉛のバスケットボールが打ち込まれた・・・彼女は無言のままだった。

「今後気をつけるよ。」

頭を抱えたまま耐えて、彼女の顔を見ないようにした。

少し肩が震えていたような気がしたので、お姫様抱っこに抱えると一気に指令室に運び込んだ。

「兵に見せるわけには行かないんだろ。」

彼女は抱きかかえられた、驚きできょとんとしたが、一瞬後にはぽかぽかと頭を殴ってきた。

もっとも力は入っていない。明らかに照れ隠しだとわかる。

「ごめん、今後気をつける。」

そう言って指令室の扉をしめたら、あごにいいキックが入り、腕が緩んで彼女を逃がしてしまった。

「兵の目を気にしなさい!」

そういう彼女の顔は少し紅潮していて声も張りが戻っていた。

「イエス、マム」

そういいながら敬礼を決めるとようやく笑顔が戻ってくれた。


司令室からチックに佐藤、真田少尉にも回線を繋ぐと、今回の経緯について春麗、アリス、高橋、チック、佐藤、真田で、今回の経過のネット会議を行った。

「まず、今回俺たちを作戦途中で、何で見殺しにするような命令が政府スポンサーからきたのかという点が謎だ?敵以外、得をするようには見えないんだが?」


「その点は私も同意見よ。ただ公式チャンネルを通じて、直ちに戦闘行動を中止せよ!の一点張りで、最初は偽電かと思ったくらい。確認して、時間稼ぎしようとしたんだけど、すぐに統幕本部から返答がきてかえって困ってしまったぐらいよ。」

「確かに変だな・・・別調からは特筆するほどの異常は上がってきてない。とすると命令の起点は自衛隊ではなく政府のほうだな。」

「しかし、どちらにしても命令系統の一部が作動したのは間違いないわけで・・・何とか原因究明しないと今後も不安ですね。」

うららの返答を受けて佐藤、真田が意見を出してくる。

チックとアリスはまだ黙ったままだ。

「情報の起点は防衛省の制服組ではないよな?命令内容が中途半端だった。彼らならもっとスマートな命令を出すだろう?」

俺の意見に皆、頷いた。

「となると、戦闘のど素人・・・外務省かしら?」

「それにしては防衛省の反応が早い・・・となると・・・犯人は一人だ。」

佐藤が気づいたことをそのまま述べる。

「自衛隊の長がビビリってのはなんともならない。直接指揮が出たのかな?」


自衛隊を直接指揮できるのは内閣総理大臣から始まるラインである。

つまり・・・総理がビビッて命令を出したと見るほうがいい。

「普段、威勢のいいことを言うやつは肝心なときに腰が引ける。」

佐藤が言ったのは某ゴルフ漫画の登場人物の言葉だが、戦場を見てきた俺たちの意見もほぼ同意見だ。

「不正規活動の予告でもされたかな?」

真田の意見ももっともらしい。東京でテロされたら万単位の死者が出かねない。

それを考えると敵の要求を飲んだのは仕方ないように見える・・・が、敵はこれで味を占めてしまった。困ったら脅迫・・・という手法が通じると考えられると、今後の防衛まで響いてくる。

敵にしてみれば失敗してもリカバリーできる方法が見つかったようなものだ。

敵の攻撃はシビアさを増してくるだろう。


「一発ガツンとやらなにゃいかんな・・・」

佐藤のボヤキが全てを示していたといっていい。


国内向け、国外向けそれぞれに対抗策をぶつけないと今後の活動に差し障りが出てくる。

国外向けは新たな作戦を計画するとして・・・国内向けが問題だ・・・

「現首相のスキャンダルでも手に入ればいいんでけどねー・・・」


うららの呟きに反応したのは今まで反応がなかったチックだった。

「首相の隠し口座の不透明な金の流れならある程度、追跡できますが?」

思わず,

何でお前が隠し口座知ってるんだよと突っ込みたくなったが、担当の教育が良かったせいだと言い聞かせスルーすることにした。

「・・・本当に追跡できるの?」

「現金の方を正確に追うのは難しいですが・・・けっこう振替も多いので推定はできます。」

「脅すネタ にはなりそうね」

とりあえずこれで部隊方針は決まった。

朝鮮半島で派手な作戦を行うと共に、国内首脳部に丸秘事項を通知して作戦の妨害を防ぐことで、

今後の防衛作戦の円滑化を行うことにする。

「となると・・・次の作戦目標をどこにするかだが・・・」

侵攻目標をめぐって喧々諤々の討議になった。

それに伴って、前回の作戦で明確になった装備品の改良も必要だ。

そう提案すると、真田少尉の目に怪しい光が点った。

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