かもめ
US-3がどのような航路をとったのかはわからないが、20分ほどで「かもめ」に到着した。
「かもめ」を最初見たときに目を疑った。
そこには全通甲板、アイランド式艦橋を備えた、空母そっくりの船が浮かんでいた。
どう見てもでかい・・・ヘリ空母よりでかい・・・何だこの船?
「船体番号としてはYO-110 自走式重油船の番号を割り振ってあるが、実質的には多目的工作艦とでもいうべき船だ。船体番号にDD振ってないので護衛艦には分類されない。
側面は分厚い装甲があるんで天井を装甲板兼耐熱鋼板で覆ったら、空母に似てきたんでMUの集中運用も考えて空母機能をくっつけたみたいな船だ。」
甲板全長は280m 全幅40m 深さ25mというタンカーとも思えない細長い姿はもともとの船が
新パナマックスに準拠していたためだろう。
「かもめ」は風上に船首を向けると最大速度らしい20ノットで移動を始めた。
それに合わせてUS-3が着地体勢に入る。
・・・すごく怖いが、ギリ行けるのだろうか?
甲板にアレスティングワイヤーが見えるから・・・コッチにもフックはついているんだろうか?
窓の外の風景がどんどん流れていく。
ぶつかる、と思った瞬間に民間機とは比べ物にならない衝撃が機体を襲った。
急停止である。
・・・
「心臓に悪いわね。」
春3佐がぼやいた。
「MUならこれくらいふわりと降りられるけど・・・まさか大型機が着艦できるようになっているとはね。」
俺はまだ全身の筋肉がコチコチでしゃべりだせる雰囲気ではなかった。
「じゃあ、降りてくれ。「かもめ」の案内役を紹介する。」
佐藤3尉に言われたもののジェットコースターに乗った後のように足元がヨロヨロして定まらない。
見かねた春3佐に手を引かれて艇を降りるはめになった。
「高杉所長からの連絡員で満尾君だ。」
艇を下りたところで待っていたのはスーツの上下に眼鏡をかけた若いサラリーマンそのものだった。
「彼がここでの案内人になる。」
「命令系統はどうなってるんですか?」
見るからに民間人の感じの伊藤氏ではなく佐藤3尉に尋ねた。
「内閣衛星情報センターの高杉所長が直接のトップになる。陸上幕僚監部調査部第2課別室(調別)出身で元陸将だ。」
「それってどういうことですか?」
聞いてもよくわからなかった俺は佐藤3尉に質問してみた。
「陸自の通信傍聴部隊のトップだった人が、内閣情報調査室でも一番重要なセクションのトップで、その人の支援で本作戦は遂行されているということだ。」
「そこでどうして佐藤3尉につながるのか・・・ちょっとわからないんですが?」
「昔、某国大使館付き武官をしてた時に調別と面識ができてな。それ以来だ。」
「なるほど。」
風の強い甲板の上で、ようやく足の震えが収まってきた。
春3佐のニヤニヤ顔も気になるし、早く館内入って説明を聞こう。
「内閣情報調査室、内閣衛星情報センター 主査 満尾 広司と申します。以後よろしくお願いします。」
彼は一瞬の間に内ポケットから名刺ケースを取り出すと名刺を構えていた。
・・・流れるような動きは、もし出してきたのが名刺ケースでなくコルトポケットなら撃たれていたであろう自然な仕草だった。
両手で名刺をもらいながら、彼がただのサラリーマンではないことを強く感じさせられていた。
名刺には連絡先として電話と携帯の番号そしてメールアドレスが書いてあった。
「連絡は自動的に転送になりますので、その番号で登録していただいて大丈夫ですよ。」
彼は柔らかい物言いではあるが、表情の感じない声で告げた。
「では館内に向かいましょう。」
そういわれたときに背後でUS-3の発艦手続きが終わったらしい。
いきなりの急加速で空に向かって撃ちだすというのが正しいような勢いでUS-3が離陸した。
「まさか・・・カタパルト・・・」
「ええ、超電磁カタパルトが搭載されています。必要ならばF-18でもF-35でも運用できますよ。」
「これって、速度は遅いけど空母そのものじゃない!」
春3佐が驚いていた。
「いいえ違います。詳しいことは船内で話します。」
我々は彼に従って艦橋に向かって歩いていた。
「そういえば傭兵会社の社名決めてないんですけど、何かいい名前ありますか?」
艦橋に入って会議室に備え付けのドリンクバーでホットコーヒーを準備しながら満尾氏は話しかけてきた。
「規模が正確にわからないとイメージがわかないかな?」
中隊なのか?大隊なのかよくわからない。来る途中でも結構人がいたような気がするし
「船員が100人、陸上部隊が1個分隊(11名)、MUが2個小隊(8人)、飛行艇が2機(25名)整備員50人ですから全部で200人くらいですかね?」
「船員が100人って多くないか?タンカーの運用はせいぜい30人もいればできるはずですが?」
「それは最下層甲板に秘密兵器を積んでますので」
「秘密兵器って何積んでるんだ?」
「うずしお級潜水艦を一隻格納してます。」
「まじか・・・」
「耐用年数の問題で廃棄予定のおやしおを搭載しました。好きに改造してみてください。」
「そういわれても潜水艦の製造知識なんて誰もないぞ。」
佐藤3尉の専門家らしいツッコミが入った。
「チックさんなら学習できるのでは?」
「そういうことか!」
湯気の上がるコーヒーが目の前に置かれた。
「政府としてはあれほどの人工知能を他国に渡すことは国益を損する行為と判断します。よって他国に渡すのは論外、しかし得られる権益が大きすぎるので、国内での運用も難しいと考えています。」
「利権争いで分裂が目に見えるからね。」
俺の言葉に満尾氏は頷いた。
「ゆえに隔離して運用するしかないのですが、ペアのAI アリス01を考えると最前線、チックの拡張性を考えるなら軍事工場がベスト。ということで所有権のあいまいな拿捕船を工場に改造しました。」
改造・・・ってレベルじゃない気もするが・・・?
「皆さんへはミッションとして民間企業もしくは財団法人を通じて作戦が依頼されます。報酬は補給物資や新型機、あるいは技術・資金でもいいですが・・・それらが支給されます。それと同時にAIの能力拡張とそれに伴う結果を別途報告願います。その結果については国内の非公開特許で扱われ、限られた機関での実証を行った後、データベース化していきます。こちらの期間は2年です。2年終了時点で皆さんは名目上は原隊復帰してもらうことになります。ただしその間は脱走兵と同じ扱いですので注意してください。」
「ようは2年間は日本の土地を踏むな。AIを研究して報告しろ。食い扶持は自前で稼げ。ということだな?」
佐藤3尉が要約してくれた。
「ええ、最低それくらいは潜伏しないと中華人民共和国からの横やりがうるさすぎます。それでよろしいならこちらの契約書にサインを。」
満尾氏はアタッシュケースから取り出した書類とペンをテーブルの上に置いた。
契約書を読んでみて、説明された内容だったので、その場でサインをした。
春3佐もサインをしている。
「最後に傭兵会社の法人名を決めてほしいんですが?」
「第343増強航空隊」
俺の意見に反対は出なかった。
「では㈱第343増強航空隊ということで登録しておきます。」
彼はアタッシュケースの中のPADを操作すると、連絡を終えたようだった。
「ではミッション依頼が3件来てますのでPCでご確認ください。」
そういうと、ちょうど着艦したUS-3 4番艇に向かって歩き去った。
4番艇からはAP分隊と装備小隊が装備と一緒に降りてきている。
足長蜂とターキー01も吊り下げられて下ろされている。
おそらく満尾氏は4番艇で船を離れるのだろう。
結局、残ったのはいつものメンバーである。
「高橋、とりあえず船の装備確認しましょう?」
「わかりました。一番、謎の潜水艦から見てきましょう。」
俺たちは船員に案内を頼むと最下層甲板に進んだ。




