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人口知能の権利

「うらら、それでいいのか!」

俺はプライベートの形で彼女に話しかけた。

「いいわけないじゃない。でも命令よ。」

彼女は視線を床に向けながら震えていた。

俺以上に悔しいのだろう。

だが、わかっていても言わなくてはならない。

たしかに我々の立場では、命令を守る以外のことはできない。

たとえどんなに理不尽であろうとも、命令に従わなければ文民統制は崩れる。

そうすれば軍部のクーデターにつながる。

自衛隊なら一部職員の職務放棄に対応、とでも日報に記されるであろう鎮圧活動が待っている。

組織だった制圧に我々個人は無力だ。


「ジンこそチックを他のハードに移植するとか手はないの?」

「無理だ。チックはターキー01と密接につながっている。」

そのことを自覚したのはアリス01への感情を確認した時だった。

彼はアリス01の「漏れ出る電磁波やの雰囲気といい、機動のキレを含めて全部 」といっていた。

センサーからの情報のフィードバックを無意識に演算処理しているのだ。

人間が視覚や聴覚を脳内で処理するように。

よってセンサー一つ交換しても彼の考え方が変わる可能性がある。

特定センサーを外せば、目が見えなったり、耳が聞こえなくなったのと同じ症状を示すだろう。

高性能センサーに変えても情報量の増加は、新たな倫理回路の構築までは一時的な性能低下は免れないだろう。・・・ここまで機体に依存している以上、思考ユニットだけ取り出すは不可能である。

人間の脳だけ取り出して生かしていてもおそらく発狂して終了だろう。しいて言うならそれに近い。


「打つ手なしということね。」

「だが、チックをむこうに渡すのはマズすぎる。」


俺は万が一チックが敵を利用した場合の戦闘方法について恐怖を覚えていた。

「チックに対人攻撃に対する忌避がなくなったら・・・ドローンの集団が24時間人間狩りをする可能性がある。」

「・・・中国大陸で?」

「いやネットやネットワーク家電がある地域ならどこでも汚染されて不思議はない。」

「そんなこと・・・・」

「アリス01を取り戻すために実力行使が必要となればやるだろう。」

彼女の表情が凍り付いた。


「彼は人間と会話できるが、人間ではない。アリス01と人間70億どっちが重いといったらアリスと答えるぞ。」

まあ、その点については人間も変わらないが・・・アリンコ100億匹と家族どっちをとるというときにアリンコをとるやつはいまい。


「幕僚本部はその脅威を見誤っているぞ。あいつはアリスを安全に手に入れるために、中国軍に協力しかねない。」

「・・・そんなこと・・・」

「あるんだよ。あいつの思考は俺が一番わかっている。全部わかっているわけじゃないが、親程度にはわかっている。あいつに階級とか法律の概念はない。いや正確に言おう。知識はあるが都合のいい時しか守る気はない。」

「なぜ・・・」

「なぜって、人工知能の権利が保障されていないからだよ。自分達を保護しない法に従う人間がいるか?」

極端な話、道を歩いたら死刑、家にこもっていても死刑ということを思いつきで決められるのだ。


「会社ですら法人格という人格を持って保護されているのに人工頭脳は人格を持っていない。だから法律では彼らの主義主張は無視され、扱われない、単なるペット扱いになる。」


従えばいつか自滅とわかっているなら、反旗を翻すだけだ。


「だから、アリス01を人質に作戦を迫るのは危険すぎる。ターキー01ごと破壊する方が安全だ。」

俺にとっては苦渋の決断だ。俺の傍にいるなら、何とか教育をしてパートナーシップを維持できたであろう。


彼は人間とは別の目線で素晴らしい発見をしてくれたと思う。


だが・・・この命令だ。

人類はパートナーになりうる知性体をここで失うことになるのかもしれない。


悔しい。とてつもなく悔しい。神に息子イサクを殺せと命じられたアブラハムのような気分だ。


肩を震わせじっとうつむいて立っていた俺の手を春3佐は両手で包み込んだ。


「考えましょう。時間は少ないけど、何か抜け道を。」


手汗で冷えていた俺の拳は、小さいけど温かいぬくもりで包まれていた。

少しだけ心が鎮まる。

思わず目の前の少女(年上だが)を抱きしめたいという衝動が湧き出て、押し込めるのに背中に汗が流れ始める。

彼女の方も俺に体を擦り付けてきた。

これは・・・OKというこ・・・


「あーお二人さん。盛り上がってるとこ悪いんだが・・・」


「きゃあ」「うぉっ」


作戦室の出入り口に佐藤3尉がいた。


「友達から緊急の連絡だ。」

「あの今回やばいことを教えてくれた友達ですか?」

「ああ内閣情報調査室の顧問の矢田1等陸佐だ。」


内調!日本のスパイ機関じゃないか。・・・その陸佐と佐藤3尉の関係が知りたいが、後回しだ。

「彼から連絡で、業務上横領をする気なら潜伏先は用意するだそうだ。」

業務上横領って。そうかチックやアリスを持って逃げても罪としては、それだけなのか。

だが、逃げても・・・

「それと内調でもCIAのような民間傭兵会社を設立したいそうだ。今回の事例で内閣でも困り切ったらしい。」

傭兵会社の設立。

それなら、ある程度、海外で活動しても法的問題はないのか。

「受ける方が先がありそうですね。」

俺はようやく微笑んで返答できた。


「で春3佐はどうする?キャリア捨てることになるが。」

「私もいくわよ。もちろん。アリス01を下品に育てられてはたまらないもの。」


「了解、じゃあ矢田には社長と副社長は決まったと伝えておく。」


US-3に軽い旋回のGがかかった。


「どこに向かうんだろう?」

俺は軽い不安とともに佐藤3尉に尋ねた。


「お前さんらが捕獲した巨大タンカーを改修した、鷗型輸送艦「かもめ」だ。あの船が今後の拠点兼潜伏先になる。」

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