雨の日・・・
今日は雨である、そして敵は来ない。
いまだに全天候型ドローンはコストパフォーマンスの関係で実戦配備はされていない。
数と安さが売りの武器に汎用性を求めたら5倍くらいの値段に跳ね上がったらしい。
(主に電波送信出力と受信能力の向上で・・・雨による電波障害のせいである。)
ともあれこういう日はいつもなら書類と訓練に明け暮れることになる。
チックと話しながら前回の防空戦についての戦訓をまとめていく。これは報告書とは別に23連隊に提出するものでJTF-対馬での運用に生かされるはずだ。
上申内容としてはフェーズ3の増設とフェーズ2(米軍中古)の増設はどっちが得かという内容になっている。
コスト・パフォーマンスを考えてフェーズ3を改良したフェーズ3.5というべきものの開発(ソフトのみ変更)とそれによるフェーズ2ミサイルの誘導ということで、海自のイージス艦とミサイル打撃艦の組み合わせを例に作成している。
海自に比べて予算に制約の大きい陸自は、たぶんこの案でまとまるだろう。
書類をまとめて一息ついたところでチックが声をかけてきた。
「高橋、春一尉から連絡です。」
「わかった。つなげ。」
今まで書類を打ち込んでいたディスプレイに新しいウィンドウが開いて、春一尉が映りだされた。
「高橋、げんきー?」
「ええ、元気ですよ。そちらはどうですか?」
「下は大雨みたいで、出撃はなさそう。」
「対馬はさほどでもないんですが・・・どこにいるんですか?」
「佐渡50km西かな?」
「相変わらずアグレッシブですね。」
「巡回ルートは統幕本部から来るから、どこに行くかは艦長くらいしか知らないけどね。」
「でもそれだとレーダーのルックダウン能力に支障が出てるんじゃないですか?」
「さすがに波が3mを超えるとねー。補正しても限界はあるかな?」
レーダーは上空から照射すると反射波が海面の波頭の動きを拾ってしまうため、どうしても精度が落ちる。
「まあイージス艦のレーダーデータ、リンクさせてるから問題はないよ。」
彼女はこともなげに言ったが、イージス艦がその地域に配置されているというのは作戦内容になるのでギリギリやばい内容に入っている。話を変えることにした。
「ところで何の用ですか?」
「用がなきゃかけちゃダメ?」
「・・・かわい子ぶっても駄目です。手短に済ませましょう。」
「乗りが悪いなー。高橋は。」
新しい統合任務部隊についての連絡だった。
発足は3か月後。
母艦の所属は岩国基地の第31飛行群の71飛行隊からUS-3を4機分派する。
(コードネームはIVONYのまま)
岩国基地では71飛行隊に変わって72飛行隊が新設される
(コードネームは71飛行隊の救難隊用RESCUE SEAGULL を流用、ただのSEAGALLに)
このUS-3を改造して内3機に各4機のHU(一個小隊)計1個中隊を搭載、残る一機に一個分隊(10+1体)のAF搭載の小型ホバー1機を格納する。
「でAF分隊の分隊長があなたね。」
「それは了承するが、ところで総司令は誰になるんだ?」
「情報統合の問題があるから海将補(一)だと思うんだけど・・・もしかしたら空将補(一)になるかもしれない。」
「まだ決まってないのか?」
「普段は岩国基地にいるだろうから、こっちに乗り込むわけでもないしね。JTFコードだけは決まっているわよ。JTF-JS(JAPAN SEA)」
「その名前だけで目の敵にされそうな・・・」
「まだ確定じゃないけど、日本国外における警察権を付与されるかもしれないって」
「それって、あれか、敵国内での行動か?」
「国内に直接影響のある犯罪を検挙するためっていう名目で、敵国への侵入工作があるかもしれないってことよ。」
「いらないなー。バックアップがしっかりしてないと危険すぎる。」
「それもあって、司令の成り手がねー・・・」
「あーなるほど。」
国外での潜入作戦なんてうまくいっても公表できず、失敗すれば尻拭いさせられるのが司令の役目になる。面倒だけでうまみのない仕事、しかも手が抜けないとなれば、なり手は少ないだろう。
「とはいえ、有能でないとこっちが困るぞ。」
「その辺は大丈夫のはず・・・US-3×4機という時点で300億円以上の装備投入だから、無能な人間には任せられないもの。」
US-2に比べて30%ものコストダウンに成功したUS-3だがそれでも75億円はする。
決して安い額ではない。
「またなにか決まったら連絡するわ。」
「ありがとう。よろしくお願いします。」
通信ウィンドウが閉じた。
「チック、いずも級かひゅうが級の艦長経験者で海将補(一)に昇進してる人物をピックアップしてくれ」
「該当者は1名です。須川海将補55才、現職では横須賀の開発隊群司令です。」
「あかえい(スティングレイ)なるとびえい(ナルイーグルレイ)おにいとまき(デビルレイ)なんようまんた(マンタレイ)を含めるとどうなる。」
「変わりませんそれらの経験者は海将補(二)までですね。」
「厳しいなーできれば前線経験者で情報部経験者がいればいいんだけど」
「空自の西部防空警戒団司令が前任が情報部ですが?」
「だれだ?」
「寺内空将補です。」
「順調にいけば次は方面司令隊幕僚長、方面司令隊長、航空総隊司令まで狙えるエリートか・・・手を出してくるとは思えないな。」
「でも春一尉の先ほどの話では候補はこの二人だと思われますが?」
「たぶんそうだろう。」
他にも何人かリストアップしてみたがピンと来なかった。
「あーめんどくさい。ちょっとジム行ってくる。」
「わかりました。私は予想される作戦空域と作戦目標をピックアップしておきます。」
「頼んだぞチック。」
俺は長時間座っていたせいでこわばった体をほぐすべくジムに向かった。
今日は雨のせいで湿気が高い。
汗が冷えやすいこともあって、ストレッチをメインにすることにした。
柔軟の後はゴムバンドを使ってのストレッチにした。
こわばっていた背中や腰を一つ一つほぐしていくように微妙に角度を変えてストレッチを続けていく。
30分ほどでようやく汗が湧いてきた。
そのころには司令が誰かなんてことで悩むのは無意味だと気付いていた。
部下は上司を選べない。
これは会社も自衛隊も一緒である。
着任した司令の下で作戦を成功させなくてはいけないのは変わらないし、司令が作戦目標を決められるわけではない。そこらへんは統合幕僚本部の管轄である。
同じ考えるなら、与えられそうな警察権の範囲と実例を、歴代のPKO部隊から拾ってきた方がいいかもしれない。
筋肉の一つ一つが独立して動くような感じになり、滑らかに体を動かせるようになったのでストレッチを終了してプライベートスペースに戻る。
チックは予想戦闘域をプサンからソウルにかけた旧韓国領と推定していた。
そこならば米国の亡命韓国政府に要請させてPKOの形を整えることはできるだろう。
「作戦域では韓流ドラマは流れてないだろうが、中国国営放送は流れているらしいからなぁ。」
2020年代後半以降、朝鮮半島は楽浪軍管区と呼ばれている。
最後にちらっと書きましたがこの時代、朝鮮半島はすでに中国に占領されています。
経緯については近いうちに。