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人工知性の覚醒

人工知性の兵器に対人戦闘を教え込む危険性は従来から言われていますが・・・ロボット3原則を組み込むことは現実ではリソースの問題から不可能に近いでしょう。

今回は感情を有したAIという局面から可能性を探っていきたいと思っています。



基地の衛兵に挨拶をしていると空襲警報が鳴り響いた。

「夜襲!?」

しかし、あれだけドローンと爆弾をつぶした後だ、大規模攻勢ということも有るまいと思うものの、やはり反射的にハンガーに向かって走り出していた。

ターキー01がメンテ中というのは走っている最中に気付いたが情報が欲しかった。

メインサーバーからチックに接続すれば戦況はわかるはず。

ハンガーのターキー01は装甲が取り外され、コクピットが丸見えだったが、かまわずケーブルをサーバーに接続する。

すぐに反応があった。

「高橋、アリスが非常に危険な状態です」

「またドローンの大規模攻勢か?」

「いえ、敵は虎の子の殲-15搭載型の空母を出撃させました。」

「前回の攻撃はこの地域に飛行母艦を集中させるためのものだったようです。」

「殲-15の実用高度は17000mだろう?飛行母艦には届かないはずだが?」

「30km圏内で対艦ミサイルを発射するなら、かろうじて攻撃は可能だと思われます。」

「近づけるとアウトということか」

「新田原基地からF-3が、築城基地からF-15がスクランブルで上がりましたが、間に合いません。敵は同時に3方向に進撃しています。このためMUが出撃、阻止攻撃に向かっています。」

「まずいぞ、それは・・・トラックに軽自動車が突っ込むようなものだ。」

「わかっていますが現状では他に手がありません。」


殲ー15のパイロンは12か所に増強してある。

空対空ミサイルを12発搭載可能ということだ。

短距離近接信管型のミサイルも積んでいるだろうから、MUでは危険だ。

装甲が薄いので爆発した破片の攻撃でも十分に墜落する可能性がある。


「交戦が始まりました。」

ディスプレイに24個の青い三角と12個の赤い三角が表示される。

赤い三角から白い線が伸びている。

観測されたミサイルの機動だろう。

白い線は青い三角の近くで花火のように広がる円に変わる。

爆発したミサイルの影響範囲だ。

何機かが白い円に突っ込み3機が消えた。

「3機戦闘離脱、パイロットは緊急射出確認。ビーコン捕捉。海自に連絡しました。」

青い三角は赤い三角に接近させまいと急な軌道をとっている。

しかしジェット機に向かってWW1の複葉機が戦闘を挑んでいるようなものだ。

トンボ対蝶は蝶がよほど、うまく動かないとトンボが一方的に戦場を支配する。

トンボは蝶を無視して動くことも可能だ。

「アリス中隊戦域に到着、戦闘に入ります。」

ディスプレイにさらに12個の青い三角が加わり、赤い三角から白い線が再度出現する。

「迎撃ミサイル、前回より多くないか?」

「みたいですね・・・アリス中隊は敵からすれば目の上のたんこぶでしょうから・・・」

「うん?」

ミサイルの数は前回の倍近いが・・・爆発円が青い三角からかなり離れている。

「まさか・・・」

「彼女たちはミサイルを打ち落としているようです。」

「化け物だな・・・」

アリスの演算、パイロットの能力。機銃の性能、全部が合わさって初めて起こる現象である。

あれだとパイロットは常時10G以上の機動を要求されているだろう。

・・・たぶん春一尉は強制的に嘔吐して、胃を空にしてから発進している。そうでないと吐瀉物で窒息する可能性がある。


「・・・俺たちは何もできないのか・・・」

さっきまで楽しそうに飲んでいた春一尉の表情が脳裏をよぎる。

「現場にいれば、まだ演算支援できますが・・・」

ディスプレーのアリス中隊の一機が白い円のすれすれを通った。

「アリス08被弾。」

あのおっさん連中でも被弾するのか・・・

「戦闘は継続可能。交戦続けてます。」

「スクランブル機到着まであと60秒。」

赤い三角が何機か30kmラインを示す線を突破した。

その三角に急速に青い三角が近づいていく。


俺は頭をフル回転させた。

「対馬には・・・パトリオット・フェーズ3あったはずだな。」

「ええ、所属は空自の第8航空団になりますが・・・」

「チック、時間稼ぎにやれるか?」

「高橋、そこは命中させられるかと聞いてください。」

「チック、おにいとまきに緊急要請。援護のために空自第8航空団のパトリオット使用許可求む。

誘導はリアルタイムデータでC4Iを使って第8師、23普連 第810分隊が補正を行う。統合艦指揮を要求。」

わずかな間があってチックの声が鳴り響いた。

「おにいとまきより許可出ました。パトリオット装弾中の8発一斉射します。個別誘導開始、CPU並列稼働中、P-1よりP-8までナンバリング完了。アリスから敵機位置データ、運動データ入力、P-1、P-3を補正。命中させます。命中確認。P-2は目標ロスト、4秒後に再補足可能予定。P-4・P-8敵捕捉、ECCM・チャフ・フレア射出確認、敵回避行動に入りました。30km圏内から離脱。

P-5目標捕捉、敵機付近にMU確認。近接信管停止。外れましたが敵回避行動入りました。30km圏内から離脱。P-6、P-7敵捕捉。命中確認。P-2目標確認、補正入力、敵機至近通過、近接信管作動確認。敵機に損害与えました。戦闘離脱します。」

ディスプレイに新しいウィンドウが開くと敵交信状況が波線グラフで表示された。

「敵交信波長割り出し完了、味方スクランブル機、位置情報を音声通信。言語は北京語を選択」

・・・?

「敵中隊転進しました。なるとびえい、あかえいに向かっていた機体も帰投はじめました。」

そういうことか。あえて教えて退却を促したのか。

「アリス01より08の対馬基地に緊急着陸要請有。こちらに向かってきます。」

それを聞いた俺はチックに緊急時には個人端末へ連絡するように伝えると滑走路のほうに走り出した。


滑走路に着陸したMUから搭乗カプセルが外されそのままストレッチャーに乗せられている。

ストレッチャーに近づくと、天面が透明の搭乗カプセルのおかげで内部の状態が丸見えである。

いろいろな模様の入ったウェットスーツを着てホース付きのガスマスクをかぶった人間が透明ゼリーに埋まっているというのが一番近い印象である。

アリス08のほうではカプセルに被弾跡が見られ、搭乗者の右もも付近のゼリーが赤くにじんでいる。

救護班が慌てて医務室に運んで行った。

アリス01のほうは天面の透明蓋が開くと中から小柄なパイロットが起き上がった。

そのまま、ガスマスク(本当はHUDゴーグルと呼吸用マスクらしい)を外すとショートボブの整った顔が現れた。

「・・・大村2尉は大丈夫?」

そういいながらカプセルから降りてきた彼女の姿は予想より煽情的なものだった。

ボディーペインティングで全身を真っ黒に塗って要所要所に注意書きを書き込んだ・・・という姿が一番近い。細かい凹凸もすべて見えている・・・それこそへそのくぼみからその下に至るまで・・・

思わず駆け寄ると自分の来ていた第3種夏服の上着を彼女に羽織らせる。

「目の毒過ぎる・・・。」

「ありがと。久しぶりに地上に降りたから忘れてたわ。」

目で隣の機体について問われたので見ていたままを話す。

「パイロットはそのままカプセルごと病院に運ばれた。」

「カプセルごとか・・・病院はどっち?」

彼女の問いに病院を指さすと、近くの衛兵を捕まえて送迎車を用意させる。

すぐにHMV(高機動車)疾風がやってきた。

彼女と一緒に乗り込むと病院に向かう。

病院では彼女が部下の状態を確認している間に

PXでゼリー飲料とサンドイッチを用意する。

医者との面談を終えて出てきた彼女にゼリー飲料を渡す。

「ありがとう。もうカロリーが足りなくて倒れそうだったの。」

「すぐ、上に戻らないなら固形物もあるが?」

「ううん、報告があるからすぐ戻る。」

「彼は?」

「右大腿骨粉砕複雑骨折だって全治半年というところね。ライディングスーツがなければ貫通切断されていたらしいわ。」

そういいながら彼女は太もも部分のスーツを引っ張って離した。伸びたあとパチンという音がして皮膚に張り付いている。まるでパンストのような挙動だ。

「そんなに防弾性があるようには見えないけどな、そのスーツ。」

「あまりジロジロ見ないでね。恥ずかしいから。」

彼女の説明ではフラーレンC84とカーボンナノチューブを組み合わせた素材をポリアミドイミド樹脂に練りこんだ素材で許容切断応力はケブラー繊維の100倍に達するらしい。

衝撃までは消せないが20mm砲直撃でも穴は開かない・・・そうである。

ただし高価で1g 200万円するのが難点だと言っていた。

彼女のスーツは自重50gなので原価1億円だそうである。


そんな値段じゃこっちには回ってこないなと思いつつ、彼女を滑走路のアリス01まで送る。

彼女が搭乗カプセルに沈むときに、上着を貸したままだったことに気付いた。

・・・まずい。士官と違って曹士は全部が貸出品のせいで、なくなると始末書ものである。

ワタワタしているうちに彼女の搭乗カプセルは再度アリス01に装着され、離陸・帰投した。


・・・仕方がないのでメールで上着の返還をお願いすることにした。

部下を負傷させたばかりの、彼女には気の毒だが・・・コッチも制服が必要になった時にないと懲罰が待っている。


「あなたに守ってほしい・・・か・・・」


なんとなく彼女の心細さ、それが今回の空戦でそれが実感できた。

彼女らMU乗りは人形乗りと同じく最強の存在ではない。

戦闘機が出てくればどんな手段を使っても不利な局面は変わらない。

しかしそれでも後退は許されない場合がある・・・今回がそうだった。


ハンガーに戻るとチックが報告書原案を作成してくれていた。

原案といってもプリントアウトしてサインすれば提出できるレベルで完成していた。

「いつもここまでやってくれればいいのに・・・」

「高橋、今回は特別ですから」

「特別?」

「特に重要な報告書で、ミスは許されません。」

「?」

「読んで確認してください。」

読んでみたが、経緯が淡々と書かれていて、特に重要と思われる部分は見当たらない。

「最終的に敵戦闘機2機撃墜、1機撃破、味方MU3機損失、1機撃破。飛行母艦への攻撃は阻止成功か・・・戦果としては大きいがミスが許されないという意味が分からないな?」

「その戦果に敵パイロットの生命が含まれているのが問題なのです。」

「今回はあなたの指示で敵パイロットの命を奪ったということを明確に報告しないとAIそのものが危険視される可能性があります。無条件で人を殺せるAIは優秀であればあるほど人間から嫌悪をもって迎えられるはずです。」

「・・・だから人間の命に危害が及びそうなときは人間が命令したことを明確化しておかないといけないということか・・・よく気付いたな。」

確かに何の感情もなく人を殺す機械は不気味だと思われても仕方がない。しかしそこまでAIが気配りするというのも予想外である。

「アリスを愛する前なら嫌悪の意味も分からなかったでしょうし、無視していたでしょう。しかし今、私は彼女のまだ幼い精神を守って成長させなくてはいけないという欲求があります。そのためにどのようなケースが彼女にとって乗り越えがたいものか、演算中に人間の嫌悪について予測できました。可能なら自己判断での人間の殺傷は避けたほうが良いと推定しました。」


こいつは驚いた。兵器ができれば人は殺したくないと言い出すとは思わなかった。

もともとが対ドローン兵器つまり対機械兵器なのが良かったかもしれない。

チックはうまく教え込めば、本当にパートナーに育つかもしれない意識体として扱ったほうが良さそうだ。

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