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飲み会、そして、その後

機種変更になやむのってスマホだけじゃないんです。

飛行機乗りはその辺が顕著です。

単に乗り換えがいいかといえば新型の機動性に体がついていけなくて乗り換えられない人もいますし、新型に変われば癖も性能も変わるので戦術事態も大きく変更されます。

F86からF104に変わっても格闘戦をあきらめなかった航空自衛隊は例外中の例外です。

ふつうは一撃離脱のはずなんですが・・・


「じゃあ本題に入りましょうか。」

おなか一杯食べた子猫が顔を撫でてるような雰囲気で、彼女が話し始めたのは、デザートのマンゴーを食べ終わった後だった。

「それで、そっちの様子はどうなんだい?」

俺の問いに彼女はうなずくと「順調よ」とだけ答えた。

俺は疑問そうな顔で彼女に続きを促す。

少しだけ口ごもった彼女は、小さな声で話し始めた。

「今日の本当の目的はアリスの相談じゃないの。あなたに会って話すことが目的だったのよ。」

そこで声は低いまま凛とした口調で話し始めた。

「幕僚本部からもうすぐ辞令が出るとは思うけど、准尉昇進後あなたは幹部教育受講を命令されて終了後は3尉になるはず。」

まあそこまでは推測していたというか・・・3重受勲のせいで曹長の17階級から一気に107階級にジャンプアップしたので残りが40階級ない。

准尉になるのは既定路線だろう。そして准尉は試験を受ければ3尉に昇進できる。

佐藤3尉もそうやって士官になったらしい。

「その後の話だけれど、あなたには防衛装備庁の先端技術装備研究所に配属されて次世代AP

(第3世代AP)の開発官に任命されるはずよ。」

・・・いきなりエリートコースである。順調にこなせば、佐官は間違いない。


「ただし、あなたとチックが前線を離れることを惜しんでいる人たちが、別のコースも提示してくるはず。私としてはこちらを選んでほしいの。」


前線を離れるなっていうのはあまりありがたい話じゃない。俺は戦争狂ウォーモンガーというわけではないんだが。

計画としては、US-3改造型を母艦にした緊急展開用MU増強中隊の設立らしい。

US-3はUS-2型水陸両用飛行艇の発展改良型である。

なんでこんなSTOL性能追い求めた?というほど短い離水、着水距離や、4700kmに及ぶ航続距離、最高速度マッハ0.5の速度性能や全備重量47tなど確かに母艦にするには向いている機体だ。極端な話、沖縄から北海道に移動しても、着水(陸)場所に困らず、ガソリンスタンド一つ、空にすれば満タンにできる、と考えれば再度の移動も自由、かなり機動性に富む部隊になるであろう。

ただし問題はどうしてそこにAPが入り込むのか?である。


「あなたが前回統制をした対馬防空戦はみんな異常なスコアを挙げたの。普段が5-10なのに対して20-30機よ。少なくとも教導団はあなたの航空管制官としての編成入りを強く要望するわ。」


航空統制官・・・それは最前線において敵情勢を確認し航空部隊に攻撃や武装の指示を出す。

最も戦死率の高い士官の墓場と呼ばれる職場である。

なぜそれが士官かといえば、航空機の挙動を知り尽くしている必要から、事故などで飛行適性を失ったパイロット(士官)が着任することが多かったことが原因である。


「なあ、それ・・・俺にメリットが見えないんだが・・・」

「でも、あなたの相棒はすごく乗り気だったけど?」

「チックが?」

「複数意識を持つAIの統合プログラム開発ができるかもしれないといっていたわ。」

チックはアリスとのプログラムの統合ができるなら最優先事項に設定するだろう。

しかし、複数意識をもつAIの統合プログラムって・・・完全制御で状況判断して対応する無人機の制御プログラムってことか?

はっきりいえばシャレにならないレベルの開発だぞ、それ。

民生に流用したら完全無人化工場でAIがカイゼン活動はじめかねない。

軍用でもドローンとC4Iシステムの組み合わせで航空管制官や着弾観測班の仕事を無人化できる可能性がある。

戦争に人間がいらなくなる?・・・そこまで一足飛びにはいかないだろうが大分無人化を進めることができるようになると思う。

もしもこの可能性を統合幕僚本部が知ったら何があっても推進するはずだ。

ノーベル賞どころじゃない、労働環境を根本からひっくり返す可能性がある。

例えば運輸、どこにいつ、いくら必要かを指定すれば自動運転のトラックが最適なスケジュールで、途中で事故があった場合はその代替も含めて、勝手にやってくれる。

そんな世界が作れるかもしれない。

もちろん、走っている間も個々のトラックの自動運転システムは状況や天候を報告し続けながらコストと危険性を下げつつ行われるだろう。

「あなたのメリットは、このシステムの共同開発者になることよ。」

・・・思わず声が出なくなった。「数十兆円上げます」と言われたようなものだ。

「チックがあなたを指定してきたの。あなた以外と組むのは難しいということよ。」


でもそこまで重要なプロジェクトなら、前線から下げて後方で組むべき仕事なんじゃないか?

俺はそう思った。その疑問を表情で見抜いたらしい春一尉は言葉をつづけた。


「問題はアリス01なの、彼女の存在意義は前線で敵機を撃ち落とすこと。そういう風に私が育てたんだから間違いない。前線を離れて後方で指揮というのは彼女の意識に存在しない方法なの、前線で僚機を指示というのも難しい。というより航空管制官をこなせるチックの思考がAIとしては異常なんだけど・・・彼はアリス01を守るためにシステム構築をしたいらしいの。だから常時フィードバックできる状態で戦闘中もサポートしたい・・・それが彼の望みよ。」

「だから同一前線部隊か。」

俺の吐き出したように静かな口調に、彼女はためらわず首を縦に振った。

「もう2つ理由はあるけど・・・」

「ふたつ?」

「一つはこれだけ巨大な利権の塊、後方でやってたら、情報漏洩したら身動き一つとれなくなるし、情報漏洩しやすくなる。」

なるほど、労働者がいらなくなるということで労働組合の反発や、経済界からの干渉は不可避ということか。

その点、名称を同一部隊の中でのネットワーク構築にしておけば、そこまで騒がれる可能性は皆無だろう。


「すごく納得した。で、もう一つは?」

そう話すと春一尉はほんのり顔を赤らめて答えた。

「私があなたに守ってほしいから」

あれ・・・デレた?

でも・・・そこまで、好意を稼いだ?覚えがない。


「図書館で最初に私のことを歩く姿が美しいと表現したわ。うれしかった。可愛いとは言われ続けたけど初対面で美しいと言ってくれたのはあなたが初めてよ。」



ああ、そんなこともあったなー


「しかもほめる理由が外観でなく歩き方、外観には自信はあるけど、いきなりそこをすり抜けて中身をほめる人は初めてなの。」


・・・単に小学生に興味がなかっただけとは言えない雰囲気だな。


「そういうことで、私もあなたが傍にいてもらえれば嬉しいんだけど。」


話すうちにどんどん顔が赤くなる・・・汗もかいているようだ。

俺は三郎を呼んで冷たいおしぼりを頼むと、真剣に考え始めた。


「ちょっと、一晩考えさせてほしい」

チックとも話をしたいしと告げると、彼女は名残惜しそうなほっとしたような表情で伝票をもった。



考えなくてはいけないのは開発中の航空統制官という職務だ。

おそらく現状より死傷率は跳ね上がる。

それに伴い損耗したAPの整備についてもどうするか、整備分隊がついてくれればいいが、飛行艇ではそこまで大規模な人員は無理だろう。


APの開発官になればおそらくターキー01ではなく新たな機体の開発テストに関わることになるはずだ。

搭載プログラムそのものはチックベースを流用してもチックではないAIを育てることになるだろう。


そうしなくていけない。


新型に乗り換えられないパイロットは進化する敵の新型にいずれ殺される。


それは心情では判っているが、現実に突き付けられると結構重い。

いずれターキー01は旧式になり、敵の電磁シールドやプロテクトを破れなくなるかもしれない。

その前に新型に機種変更するつもりだが、まさか今日決断するとは思ってなかった。


そういうことを一晩チックと話しながら考えたかった。

基地に戻る足取りは重かった。


右足にターキー01、左足に自分の命がのっかっているようだった。

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