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脈印  作者: 追いかけ人
序章
1/2

第1話 時代の移り変わり(21世紀初頭まで)


20世紀


 20世紀の科学分野の進歩は目覚ましいものがあった。その中でも特筆すべきは、遺伝子(DNA)の発見と、原子力の発見であろう。


 政治的には帝国主義から民主主義への変遷、そして国力のバロメーターは軍事力から経済力へと移行しようとしていた。


 地球上の国々は国連を中心とし、国家間の問題を平和的に解決しようと歩みだすかに見えていた。


21世紀初頭


 自然科学の一部の分野は、宇宙へと興味が移っていった。ビッグバン理論を軸とした宇宙論や素粒子論などの理論が実験などの実証の遥かに先を歩むようになり、実証主義であったはずの物理学に僅かな混迷を与えるようになる。


 他の自然科学と比べ物理学の進歩が速い理由は数学と物理学の相性のよさのせいだといわれていた。相性のよさとは、理論や発見を表現しやすいということである。表現しやすいということは、多くの人が情報を共有しやすいということであるから、多くの理論の関連性や連続性を切り分けても、理論の再融合もしやすいということである。


 物理学に比べ例えば、生物学や医学は多くの場合単発的に研究がすすめられる。いくつかの発見があっても、その関連性を表現する手段を持たないため、各々の発見に関連性があることを知ることが困難であった。


 関連性を知ることが困難であるため、物理学以外の自然科学は、単発的な進歩しかのぞめなかったが、それでも着実に世界に恩恵を与えていた。しかし、生命や精神についての解明は全くといっていいほど進まず、むしろ哲学や宗教などが人々に受け入れられていた。


 一方、物理学は実証主義を置き去りにし、理論だけが先走り先の見えない暗闇に突入するかの如くであった。つまり、理論の融合は建前となり、ましてや実証の融合は薄くなっていった。政治は経済を優先し、経済はエネルギーを渇望していた。故に100年も前に発見された原子力が全ての原理を解明することなく、使用されることになる。


 全ての原理を解明していないから、例えば原子力発電所の事故の対応ができないことが多く、それは一般人へと事故という災害なって返っていった。災害は報いと考えられる。報いの因は未解明の原子力発電である。本来ならば、報いをうけるべきなのは原子力発電所を稼働させたものたちなのだが、この世界の掟である弱肉強食が適用されて弱いものほど報いを被ることになっていた。


 それでも、世界はエネルギーを渇望する。報いを受けたはずの一般人すら一部の者を除いて渇望する。21世紀初頭はそんな時代であった。


忘れられる希望


 『脈』は繋がりを意味する語である。この『脈』を主眼においた自然科学全般の表現手段は202x年にある市井の研究者の提唱が第1歩となり、一躍主流の表現手段となる気配を見せていた。


 この表現手段は、数学の関数を含有し、集合の概念を拡張したものだった。市井の研究者のそもそもの研究分野は、計算複雑性理論であり、表現手段を求めていたのではなかったが、理論の解を得る過程で既存の表現手段では研究の成果を発表できないことを知ったため、理論の解を得た後、解法をいかに表現するかということに歳月が奪われたそうである。


 その市井の研究者ならば、膨大な計算量を計算可能量にすることは容易かったが、その研究者は、そのこと自体がなんら意味を持たないことを知っていた。研究者が得たものは、解く術、つまり枠組みだけだったのである。その枠組みに専門分野の問題が嵌らなければただの数学のお遊びにしか過ぎなかったのである。故に、自分の研究成果を表現し世間に知らせる手段を考えたのである。


 膨大な計算量とは、当時の最速コンピュータを最高の技術、例えば並列化しても、宇宙が数十回を遥かに上回る回数だけ生成、消滅しても計算できない量である。ハードがいかに進歩しても、ソフト、即ちアルゴリズムの高速化がなければ、宇宙を夢見る物理学者の研究者もいつか頓挫することを知っていたかもしれないが、彼らは自分の研究に酔いしれていた。


 経済がのぞむものがエネルギーであるならば、物理学が市場の最高のニーズである。よって、物理学が人類の繁栄にとってもっとも重要な自然科学である。それを凌駕する分野も理論も存在しないはずだと考えられていた。


 遺伝子の研究も医学の研究も大切であるが、経済のニーズに占めるウエイトはエネルギー分野から見れば、たかがしれていた。ましてや、表現手段など経済に直接的な影響を与えない。


 このことに憂いを覚えるものが少なからず存在したが、この世界は経済、即ちお金が最優先というより絶対的な価値を持っていた。そして、『脈』の論は世の中から忘れ去られていくことになった。


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