7 苦い復讐
フィオナは起こった事を目を見開いて見ることしかできなかった。
なんでここに?
俺の前でリライトが炎の拳を胸部に貫通させて受け止めた。
そのまま流れるようにシガーの足を蹴りで斬り落とす。さらに喉に拳を撃ち込み、シガーを壁へ飛ばし、胸部に貫通していたシガーの拳を抜く。
硬いものがぶつかり合ったような爆音が響いた後、リライトは血を吐きながら膝から崩れ落ちた。
フィオナはどうしてここに? などという思いを端に追いやり、リライトに駆け寄る。彼はフィオナに笑みを浮かべ
「大きな怪我は無いか? ってお前、瀕死ではないか」
と言葉を零した。
その光景が滑稽に見え、さっきまで殺し合いをしていたことを忘れフィオナもつられて笑顔を浮かべた。
しかし、瞬時に疑問と憎悪が無限に溢れてくる。
フィオナは目の前にいるリライトに問おうとするが、フィオナの言葉に重ねるようにリライトは言葉を続けた。
「すまんな、お前の疑問に答えている時間はない。ふふっ、吸血鬼はHPが1/10あれば自己再生するものだがさっきの一撃でもう俺のHPが吹き飛ばされたらしい」
リライトはよほど面白かったのかずっと笑みを含んだ表情を崩さないでいる。
「そんな顔をするな。憎んだ者が目の前で死にそうなんだ。嬉しそうにしたらどうだ?」
頬を水分が流れる。なぜ無意識に流れるのか。フィオナには分からなかった。
フィオナの表情を見てリライトは先ほどまでよりもさらに笑みを深めた。
「大事なことはクロエに言ってある。はぁ、ビジネスに感情が入ったら痛い目を見てしまうな」
といい、リライトの身体が光の粒子となって消えていく。フィオナの周りに光の粒子が集まり、身体に付着し、涙と一緒に染み込んでいく。
心地よい温かさが身体を包む。温かいだけでなく、安心する。そして自分1人ではないと思えるような光子だ。
今まで自己主張の激しかった痛みも疲れも、今では鳴りを潜めている。
それどころか今度は力が自己主張を始めた。まるで魔王を殺せと言っているように。
体勢を整え魔力で義足を作ったシガーが両手両足に炎を氷を纏わせて走り、向かってくる。だが、すぐにその足が止まる。いや、無理矢理止まらせられる。
ちなみにだが、これまでシガーが魔法を食らっても大きいダメージを受けていなかったのは、MDFの数値だけではなく、MPもINTも全てを魔法防御に向けていたからである。
シガーが自分の足を見たとき声にならない声が喉元で燻っていた。自分の両足に氷の槍が足を縫い付けるように地面から生えていた。
自分の魔力の壁を完全に貫通して足を刺したことに驚き、さらに力ずくではこの拘束を振りほどくことができないほどの魔力が込められていることを知りさらに驚く。
フィオナは冷静だった。無感情というわけではない。ただ、このときの魔王に向けるべき感情をフィオナは知らなかったのだ。
それと同時に、フィオナはこの瞬間はどんな感情を表せばいいのか自分に詰問する。結論が出なかったのは自分が過ごしている時間が少ないからなのか、フィオナには分からなかった。
意味の無い自問自答を抑え、シガーを中心にして2重の円が床に描く。2重の円の間に火、水、土、風の魔力が等間隔で漂う。フィオナにも分からない文字の羅列。それが外側の円と内側の円に浮かび上がっていき、魔法陣が完成する。
それは消去。それは削除。それは何者もを拒む、光の柱。先ほどまでの戦闘に耐えていた部屋の天井が光の柱のところだけくり抜かれて魔王城を貫通し、そこにそびえ立っていた。
これで終わり。これで、理不尽な復讐は終わりを告げる。俺はリライトを憎んでいた。そして憎んでいた彼を殺した奴をもっと憎んだ。そして殺した。
だが、そこにすっきりとした気持ちはない。俺はきっとこれからも、シガーの最後に浮かべた驚愕と諦めの含まれた笑みが入り混じった表情を忘れることはできないのだろう。
ようやく傭兵としての話ができそうです。
あと3話以内には傭兵にいけそうです。