6 ビジネス
「これって・・・どういうこと?」
「ああ、簡単な話だ。私とお前とではレベルの差がありすぎてステータスが見れなくなっているのだよ」
フィオナはこの事実を確かめる術がなくもどかしくなる。
レベルも『?』によって隠されているし。リライトの方が歳は上なのだからレベルも俺より低いとは考えにくい。
「そもそも、なんで俺に魔王を殺させるんだよ! それこそお前のほうがレベルが高いんだから自分でしたらいいだろ!」
「私一人では魔王には勝てんのだ。だからお前と戦った後の魔王を私が襲うというわけだ」
フィオナは泣きそうだった。だけど、ここで泣いたら相手に心の隙を見せてしまう。との思いによって崖っぷちのところで踏ん張っていた。それにまだ聞いてないことがある。
お願い、否定して。と祈るように思いながらフィオナは最後の質問をする。
「じゃあ、今まで魔法を覚えさせたのも! レベリングも! 全ては俺が魔王に対する鉄砲玉にするためなの!?」
リライトはふぅと息を吐く。そして沈黙が訪れる。
何分たっただろうか、実際には3秒も経ってはいないのだろうが。
「・・・そうだ」
フィオナの顔には微笑が張り付いていた。人間、ここまでくると一周回って笑えて来るのだ。
信用していた気持ち、楽しかった思い出が心から失われていく。それによってぽっかりと開いた心の隙間を埋めようとすると、張り付くような作られた笑顔で埋まるのだ。
「だが、これは私からのビジネスでもある」
「ビジネス?」
「お前が魔王の討伐を成功させた場合、お前には一生困らないように私が援助をしようではないか」
実際こんなやつの援助など虫唾が走るぐらい嫌だ。
だが、何か心の支えになるようなもの。今回でいうとこの先の生活を支えにしないと心が壊れてしまうと自分でも分かった。
「分かったビジネスだな。何時、魔王と戦えばいい?」
自分でもここまで冷えた声を出せることに驚きだ。
「あと、1時間後だ。気持ちが変わらん内がいいだろう?」
「何時でも変わらん」
▽
45分をずっと自分の動きの調整に使う。
身体を動かさないと先ほどまでのことを思い出してしまう。そうなっては魔王に勝つことなんて不可能だ。そうならなくても魔王に勝つことが可能なのかは分からないが。
どちらにしても先ほどのことを思い出したくないフィオナは一心不乱に身体を動かした。
「それじゃあ、行くからな」
それだけをいい、魔王の場所に向かう。魔王の居る部屋は事前にリライトから聞いていた。
廊下は思っていたよりも長く、所狭しと並んでいる装飾品が俺を見下ろしている。そこで他の魔族とすれ違わなかったのは幸いと見るべきだろう。
これが話にあった扉か? 悪趣味な扉だ。3メートルぐらいの高さがある両開きの扉。さらに装飾品で人の頭蓋骨や何かの宝石がくっ付いている。
息を整えてから扉に手をかける。
常人からみたら一瞬に見える速度で、扉を開けて魔王が座っている椅子を目視で確認。
そこに向かって成人男性の頭部ぐらいの大きさの火の玉を10個放つ。
着弾した音を聞きながら水魔法で扉を凍らせる。
フィオナの背中にぶつかる殺気。いや、直接的な死の空気。とっさに右に回避する。と地面から巨人の手が生えてきてフィオナがいた場所を握り潰していた。
ここで初めて魔王を目視で確認した。圧倒的な闇。なのに太陽のように直視できない。
目を合わせただけで死んでしまうのではないのだろうか。そう思えるぐらいのプレッシャーだった
逆に魔王は自分の命を狙いに来た者を期待半分憎しみ半分で見たが、その目には見る前の期待や憎しみなどなく失望一色だった。
フィオナは魔王を見ながらステータスオープンと心で叫ぶ。
名前 アントン・シガー
年齢 937
性別 男
種族 魔族
Lv 1485
HP 10,525,625
MP 6,524,385
STR 62,618,242
DEF 58,479,925
AGI 8,189,423
DEX 843,251
INT 1,395,762
MDF 10,584,624
LUC 5,126,482
ふむ。多分だけど、魔法にしても格闘にしても一撃直撃したら俺は死ぬな。何とか素早さは勝っているから回避中心での立ち回りか。だけどこの数値差なら相手に動きを読まれたら普通にアウトだ。
……やっぱLUC高いじゃん。
ん? どうして俺は魔王の、もといシガーのステータスを見れたんだ?シガーのステータスが見れたってことはリライトはシガーよりレベルが高、っ!!
目の前にまで迫っていた小さな太陽をぎりぎりでしゃがんで回避。思考の全てを戦闘に回す。ここで考えるべきはどうやって奴を殺すかだ。
フィオナはシガーの後ろの壁に向かって10メートルの跳躍をしながら氷の槍を数本撃ち込む。そのまま壁を蹴って天井に飛び、足を凍らせて天井に立ち、見下げる。
そのまま下に向かって蒼色の炎の雨を降らせる。
破裂音と一面に広がっている蒼が収まる。そこには擦り傷が少しできた美丈夫が顔をゆがませて立っていた。
シガーの閃光のようなスピードの拳を天井に佇む、フィオナを象った氷の像が受け止める。砕けた氷の像がシガーを氷に取り込もうとするのを下に降りて回避する。
それこそがフィオナの策だった。シガーが降りた地点から半径5メートルにかけてドーム状に凍る。それは今までの氷の槍とは比べものにならない密度だ。
これによって稼げる時間は1秒に満たないだろう。だがこれでフィオナにとっては十分であった。
ドーム状の氷をシガーごと炎の爆発で粉々に吹き飛ばす。中心温度は3万度を超えるだろう。太陽以上だ。これがフィオナの最大火力であった。
これ自体は悪くない策だ。しかし視界が煙等で遮られるのは致命的だった。
そう、このぐらいで今世代の魔王が殺せる訳がないのだ。前世代の魔王ならこれで殺せたかもしれないが、今世代の魔王は歴代最強と呼ばれる傑物であった。
フィオナは自分の策がうまくハマったこと。自分の最大火力を直撃させたことによって油断。いや油断といえないほどの微小な隙が見えていた。
急に煙が揺れる。何かが身体を捉え、背中に向かって強風が吹き荒れる。地面?いや壁に背中から突撃をし同時に腹部にも痛みを感じる。
フィオナが元々いたところには左腕があらぬ方向に曲がり、服が破れ、しかし色っぽさなど欠片もない痛々しい火傷の跡がある肌が見え隠れしている男がいた。
男は火傷で醜くなった顔を先ほどよりもさらに歪ませて、フィオナに向かって炎を纏わせた拳が不快な音を立てて襲ってくる。
フィオナは直観する。だめだ、これは避けれない。
身体が動かないのだ。
そのままフィオナの頭部に向かって炎を纏わせた拳が吸い込まれていき、直撃する寸前に目の前が何かで遮られた。
「……リライト?」
この展開読んでた。って人いるんですかね?いるでしょうね。