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48 気まぐれ

「おっと。英雄さんのご帰還ですか」


 フィオナは冷やかし半分でコントーラを出迎える。冷やかし半分ということをコントーラは気付かないようだ。


「ああ、あの時の……」


 コントーラにとってフィオナとは少し前に絡まれたところを助けたというだけだ。ネプチューン戦の時に援護したフィオナということは当たり前だが彼は知らない。


「一杯付き合えよ、ほら」


「いや、そんな気分じゃない……」


「そういうのいいから」


 フィオナは無理矢理コントーラの腕を引っ張って席に座らせる。そしてすぐにコップを用意し、酒を注げば席を立つ男はいない。

 戦場で酒を用意することの難しさは異常だ。あらゆる手を使って獲得したこの入手困難な酒を使ってフィオナはコントーラについて調べなければならない。


「それで、初陣を綺麗に飾れた感想は? どうだった?」


「あんまり気分は高揚しないんだ」


「そう? 英雄の道の一歩目を踏み出したんだよ?」


 今回のフィオナの目的。それはコンラートが英雄として祭り上げられることに耐えられるかどうかの確認だ。英雄というのは存外、孤独なものだ。孤独に耐えきり、敵の憎しみを一身に受けきることが英雄になるということだ。

 この行動はフィオナの自己満に過ぎない。仮にコンラートが英雄になることに耐えられないとしてもフィオナがどうこうできる問題ではない。コンラートが英雄になる素質がないにしても、精神的に無理だとしてもフィオナは祭り上げるための援護しか出来ないのだから。


「それに、ネプチューンを屠ったんだろ? 強かったんじゃないの?」


 軽く探りを入れる。自らの仕事を疑うわけではないが、少し気になったのだ。シックスセンス、胸がざわつくといってもいいだろう。そんな不明瞭で不透明なものをフィオナはあまり信じる気にはなれない。


「それが、あんまり強くなかったんだよ」


「なんだ、それ? 自慢か?」


 少し、滴る冷や汗を拭ってフィオナはおどけたように話し続ける。


「いや、俺があんなに圧倒できるぐらい弱いっておかしいよなって」


 拭いても拭いても冷や汗が止まらないフィオナ。フードによって冷や汗が滴っていることは気付かれないが、異常なほどに汗が出る。

 パタパタと手で仰いで風が来るようにするが、それでも暑さは解消されない。


「しかもなんか最後に、黒い影みたいなものが見えたんだ」


 ――やばい。フィオナの脳内はその言葉で埋め尽くされる。敵を殺したのならもっと気分を上げてもいいはずなのだが、コントーラにはそれがない。冷静だ。よっぽど、最前線で殺し合うよりも後方で頭を使う方が似合っているだろう。


「気のせいだろ。それよりも湿っぽくなるなって!」


「そう……か?」


「そうだろ。お前がやったんだ。その本人がそんな調子だったら士気にかかわるだろ。こういうときはお前はあまり考えずに馬鹿騒ぎしたらいいんだよ」


「……それもそうだな」 


「それじゃ、お前に新しい客が来てるだろ。俺は退散するな」


 フィオナはコントーラの後ろを指さす。そこにはコントーラと関わりたいと思っているのだろう数人が歩いてきている。「お前も一緒にどうだ?」と言いながら、コントーラが隣の席に視線を戻した時にはフィオナはそこにいなかった。 








「きっとあいつは英雄の器ではないと思う」


 最高司令官室で寛ぎながらコーヒーを飲んでいたハックはフィオナの言葉に気を引き締める。

 飲みかけのコーヒーを置き、ふぅと一つ息を吐く。そして腕を組む。


「一応理由を聞いてもいいかね?」


「俺が今まで戦った奴らはその身体から自信が溢れていた。それなのに、コントーラは自信があまり見えない。技術云々じゃないんだ。フィジカルというよりはメンタルだな」


「君のこれまでの戦歴は知っている。撃破人数も、撃破対象も。その君が言うのなら間違いないのだろう。だが、我ら反乱軍には人材が少ない」


「それは分かっている。あいつは英雄の器ではないが、あいつが一番マシってことも分かっている」


「それが分かっているのならもうこの話はいいだろう? 君はなんだ?」


「俺は傭兵だ。仕事の約束は破れないな」


 小さく溜息。踵を返し、頭を掻きながら部屋を退出する。

 実際、コントーラに肩入れする理由はフィオナにない。それに、先程の助言も気が向いただけだ。それこそコントーラを気に入った訳ではないし、死んでほしくない訳でもない。


(ただの気まぐれだもんね)


 フィオナの脳内はコンラートの事から次の任務の事にすり替わっていた。


高3なんで忙しいですね(言い訳)

皆さん、深夜廻買いました? 自分は勉強のために買えません(血涙)

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