46 混戦
「やあ、大丈夫だった?」
次期英雄はフィオナに笑顔を見せる。
なるほど、確かに顔は整っている。さらに実力もありそうだし、人当たりも良い。人間という種族からしてみれば全てにおいて中々に悪くはないだろう。
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
フィオナは当たり障りのない言葉を並べて早々に立ち去る。
失礼ともとれるこの行為をしても、彼は嫌な顔1つしていない。フィオナは横切る瞬間に横目で反応を見たが、英雄になるべき反応とはお世辞にも言えなかった。
(人を殺せるんだろうか? 頼むからちゃんと殺ってくれよ)
フィオナの願いが届くかどうかは戦争になってみないと分からない話。
▽
「作戦が決まった。これから後8時間後。闇夜に紛れて進軍し敵軍を撃滅する。我々は右翼担当。部隊を半分に分け、半分が先に突っ込む。時間稼ぎをして、中央から狼煙が上がったら残り半分を投入。右翼をズタズタに引き裂く」
特別に支給された通信機を使ってフィオナは盗聴に励んでいた。
上官にすれ違う時に通信機をくっつける。予想以上に楽だったと溜めていた息を吐く。
「さて、俺も行きましょうかね」
準備された自室をあとにして、現在盛り上がっている作戦会議室を通り越し、最高司令官室を目指す。
途中の通路で全く人とすれ違わなかったのはフィオナにとっては珍しく、運が良かった。このパターンは後で不幸な事態が起こるというパターンでもあったが。
最高司令官室のドアを開けるとそこに目的の人はいた。
「どうした? 怖気づいたか、傭兵」
「まさか。少し融通してもらいたい」
「なんだ?」
今作戦の最高司令官ことハックはフィオナの提案に警戒感をその身に滲ませる。
その警戒感はフィオナも感じ取れるほどに顕著だ。
「そんな酷い事じゃない。もうすぐ作戦をするんだろう? 俺の配置場所を変えて欲しいだけだ」
「何処に?」
「戦闘が見える高所。出来ることなら、戦闘のほぼ全体が見えるところがいい。あ、ついでに相手の強い奴を英雄さんに当てて欲しい。バレないようにサポートするから」
「それぐらいで済むならいいだろう。期待しているぞ、傭兵」
▽
最初はあっさりと始まる。少しの銅鑼を鳴らしたぐらいで始まるのだから。しかし、中身は凄惨。血で血を洗い、憎悪を憎悪で払拭し、欲望は欲望に上書きされる。
そんなことは、第三者から見ているフィオナだからこそ冷静に、俯瞰して感じ取れるのだろう。
フィオナは崖のギリギリに寝そべり、その上から草を被せている。その位置からなら戦場のほぼ全てが見渡せるのだ。
さらに支給された望遠鏡を覗けば完璧。ここから魔法を放ち、援護する。勿論、フィオナには英雄以外に援護をするつもりは毛頭ない。
入り乱れて剣を振るう男達。その者達全ての剣は赤い液体で染まっている。
各地で爆発が起こり始め、魔法使いが動き始めたことが分かる。
(練習って大事だよね)
魔法使いで練習をしようと思ったフィオナは、望遠鏡で手頃な魔法使いを探す。ある程度戦場を見渡したところでようやく発見する。
左手で望遠鏡を持ち、右手で魔法陣を小さく描く。
右手から放たれた黒い光は鈍い輝きで宙に直線を描き、着弾。魔法使いとその周囲を巻き込んで大きく爆発する。
(やっば。やり過ぎた)
黒き光だったため、どこから撃たれたかは気付かれなかった。しかし練習も無しに英雄さんの近くに撃っていた場合、纏めてバラバラである。
その事実を認識すると、フィオナは安堵感を滲ませたため息を吐く。
フィオナは元々の目的を思い出し、慌てて望遠鏡で英雄さんを探す。
今度はすぐに見つけた。が現在進行形で苦戦している。相手は……フィオナの知らない人。それもそうだ、知っている人なんてほとんどいない。
すぐにフィオナはサポートをする。
相手が踏み込む瞬間で軸足を土魔法で掴む。一瞬、体勢が崩れる。だが一瞬はこのレベル、いや素人同士の戦いだとしても大きな隙となるほどだった。
体勢を崩した相手を斬り捨て、辛くも勝利する。だがすぐに新しい敵は現れる。雑兵を軽く蹴散らしながら快走する。
フィオナは望遠鏡を使い、冷めた目で眺める。
あれくらいの相手で苦戦するな。という目だ。
だが、フィオナの思っていた以上に事態は好転しない。
狼煙は上がらないし、サポートにも限界がある。サポートされる側もイマイチだ。
さらに英雄の元に新しい敵が現れる。女性だ、青い髪が彼女の持っている赤い剣を引き立てる。それなりの実力者だと、フィオナも感じ取る。どう考えても、今の英雄が何とかなる相手ではないことは確かだ。
「私はソレール所属、ネプチューン。貴方の名前は?」
「俺はコントーラ。お前を倒す者の名だ!!」
ネ「私はソレール所属、ネプチューン。貴方の名前は?」
コ「君の前前前世から僕は~♪」
ネ「見に行きたかったのは分かるが、ちゃんと台詞通り頼む……」




